彼女へのメッセージ
ー喫茶にてー
「ぶふっ!やっぱり、落ちる瞬間は皆面白いのう」
コーフィンは爆笑していた。
「あーあ、やっぱりこうなったかー。爺はいつも変わらないねー」
少年が落ちた現場へと、向かってくる存在がいた。
「おぅ、もう来とったのか。お前さんこそ相も変わらず黒いじゃねえか。なんじゃそのドレスは。んんん?よーみるとスレンダーな体に丁度良い塩梅だのう。」
「セクハラはダーメ。それより、手紙は?」
コーフィンの前へ、黒いドレスハット、そして黒いドレスを着飾った女性が歩み寄る。
「ほれ、これじゃ」
「3通かぁ~、場所は・・・うん、戻るだけで済みそう。」
「確かに渡したぞ。しかし、特別措置とはねぇ。」
「いいのいいの。元々はこっち側の都合だし!あの少年には迷惑かけちゃったからね。このぐらいしても怒られないでしょ!」
「お前さん・・・そのうち痛い目見るぞ・・・」
「はははは、これ以上何を見るっていうんだか!それじゃ、行ってくるねー」
右手を顔の高さまで上げ、手を振りながら歩いていく。
すると女性の前には黒い穴が出現し、女性を飲み込んだ。
「相変わらずでたらめな女じゃ」
コーフィンは溜息をつき、カウンターへと戻っていった。
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――病室――
ご臨終です。そう告げられどれだけの時間がたっただろう。
あんなに青かった空は、いつの間にか紅く色付き始めている。
ユミカちゃんは泣き疲れて眠ってしまった。目尻にはうっすらと涙が浮かんでおり、手にはぐしょぐしょに濡れたハンカチがある。
もうここにユキトはいない。
その事実が私の心を黒く染めていく。
明日はどんな服を着よう。明日はどんな話をしよう。日課になっていたこの他愛ない悩みは今日をもって解消されてしまった。
これからの世界をどうやって生きていけば良いのだろう。
病室に、コンコン、とドアをノックする音が響く
「はい、どうぞ」
誰だろう。先生かな?
「失礼します。えーと、ヒメノちゃんとユミカちゃんとユキト君のお母さまはいらっしゃいます?」
全身黒で着飾った髪の長い女性が病室に入ってくる。
ハットを深めに被っており、顔は口元しか見えなかった。
「え、あ、ヒメノは私です。ユミカちゃんはこの通り、眠っちゃってますね。お母さんは今車にいると思います。」
お母さんの知り合いかな?
「そうですかー。えー、お手紙を預かっているので、これを皆さんに渡してもらえますか。ユキト君からです。」
ユキト君からの手紙!?どういうこと!??い、遺書・・?
私は女性から手紙を受け取った。
「ではそういうことで」
「ちょ、これはどういう・・!?」
手紙を受け取り、視線を女性に向けた時、そこには女性の姿はなかった。
「え・・・?」
周りを見渡すが私とユミカちゃんしかいない。
まるで夢だったかのように女性は消えてしまった。
とにかく今は手紙だ。
あの人は確かにユキトの手紙と言った。
封を開け便箋を取り出す。
そこには・・・
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親愛なるヒメノへ
この手紙を読んでいるということは、俺はすでにこの世にはいないだろう。(一度書いてみたかった)
今、これを書きながらサイフォンで入れたコーヒーを飲んでいます。
なぜかインスタントコーヒーと変わらない味がするのはなぜだろう。淹れている爺さんが下手なんだろうか。でも、俺もコーヒーのことはそんなにわからないので判断がつきません。
というわけで、喫茶店でこれを書いています。
ストーカーと紙一重のヒメノの目をかいくぐるのはなかなか大変でした。
さて、俺達の仲で長々と書くこともあまりないんだよな。
なので、二つだけ、大事なことを伝えておきます。
子供の頃に言ったことだけど、約束を守れなくてごめん!
それと今まで支えてくれてありがとう!
来世か来来世か来来来世か、また一緒になれたら約束の続きをしよう。
やばい、恥ずかしい!
あ、そうだ。俺のことは忘れろよ!ヒメノのことだから「これからどうしよう」なんて考えてるんだろ?まだまだ未来は広く長いんだ!
立ち止まってる暇なんかないぜ!
あ、そうだ。
フジタとかミホとかその辺りに「遊んでくれてありがとう」って言っておいてくれ!
じゃあな!
追伸
最近買ったゲーム、俺の代わりにクリアしておいてください。
あれ、そういえばあの酒場、ここに似てるな・・・
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・・・
なんか軽い・・・
まぁでも、アイツらしいか。
「あれぇー、お姉ちゃんどーしたのー?」
眠っていたユミカが目を覚ましたようだ。
「ううん。ユミカちゃん、ユキトからお手紙届いてたよ」
「えぇー!ほんとー!?」
「うん、ほらこれ!」
未来は広くて長い。
そうだね、とても広大で遠いや・・・
――窓の外では空が紅く染まっていた。