プロローグ2・死後の世界
気が付くと俺は真っ白な空間に立っていた。
意識ははっきりしているし、手も足も存在している。
上には天井もなく、下に地面もない。横を見ても壁はなかった。
そして正面にはなぜかウエスタン風の家がある。
俺、死んだよね?ここが天国?天国ってこんな何もないの?
体は動くのか?立ってるくらいだから動くよな?
あと、歩いた瞬間落下するとかそういうのもないよな?
恐る恐る一歩を踏み出すが、特に何もないようだ。
よし!動けるし落ちたりしないぞ!
そうなればあの家に入ってみるのみ!
ん?ちょっとまてよ?数歩先が罠みたいになってたりして・・・
ほら、よくアニメのオープニングとかであるじゃん?急に亀裂入って落ちるやつ?
落ちるのは怖いし一歩ずつそーっと・・・
・・・
よっしついた!
何の家かわからんけど、とりあえず入ってみるか!
「ごめんくださーい!」
カランコロンとドアベルがなる。
ドアの向こうは、酒場のような空間だった。
正面にはカウンター席があり、コポコポと音が鳴るコーヒーサイフォンが置いてある。カウンターの中では、白髪のモノクルをかけた老人がカップを磨き、奥の棚には色とりどりの瓶が置かれている。
「おや?今日は定休日のはずだったんですが・・・。」
こちらに視線を向ける老人の表情は少しだけ困惑していた。
「あっ、すみません!死んだと思ったらこんなとこにいたもんで・・・!」
いや仕方ないよね?不可抗力だよね?
「ふむ、なるほど・・・。では、コーヒーをお出ししますのでこちらの席でお待ち頂けますか。」
そういうと老人はサイフォンからコーヒーを注ぎ、カウンターの真ん中にコーヒーを置いた。
「あ、なんかすみません・・・!ありがとうございます!」
それにしてもここは一体なんなのだろう。
疑問は絶えないが、考えても仕方ない。今はコーヒーを頂こう。
席に座ると、コーヒーの香りが広がった。
ちゃんとしたのは飲んだことないからわからないけど、インスタントとは全然違うんだな・・・。どれ、お味の方は・・・
「ッ!」
これはまさしくコーヒー!なんの変哲もないただのコーヒー!
インスタント以外のコーヒーを飲んだことないけどわかる!味は普通のコーヒーだ!
「どうです?普通のコーヒーですよね?」
なんて答えればいいのか困るところだ。
無難に美味しいでいいのかな?
「いえ、美味しいですよ!・・・それで、ここって・・?」
露骨な話題変更だと思われただろうか?
「ははは。ここですか・・・ここは”世界の狭間”とでもいえばいいでしょうか。」
老人は顎に手を当てながら首をかしげる。
世界の狭間?あの世とこの世の間みたいな感じか?
「そうですねぇ。”死後の世界”ではあるのですが、現世で亡くなった者の魂が立ち寄るところではないのですよ。」
ん?つまり俺はどうなったんだ?
死んだのは確実だ。死後の世界ではあると、店主もそういっている。
「というわけで、少し調べさせて貰いますね」
老人が右目のモノクルに触れ、ふむふむと眉間に皺を寄せる。
数秒後、モノクルから手を離した老人が「はぁ・・・」とため息を漏らす。
「あ、あの・・・」
「あぁ・・・すみません。どうやら、イレギュラーのようです。あなたは生まれる世界が間違っていたようなので、救済のためにこちらに送り込まれた、という感じですね。」
「はぁ・・・はぁ!!?いやいやいや、え?どういうこと?え?」
生まれる世界が間違ってたって、どういう意味だ?異世界とかそういう別の世界があって、間違って地球の日本に生まれたってこと?
「あなたは本来第4世界に生まれるはずだったのですが、何らかの手違いで第13世界に送られてしまい、その世界に適応できず死んでしまった哀れな魂、ということですねぇ。」
母さん、どうやら俺は間違ってあなたの元で生まれてしまったようです。
って、哀れな魂!?言い過ぎじゃない!?確かにそうだけど!
「そこで特別措置がありまして・・・。内容は、元々送られるはずだった第4世界への転生と現在の記憶維持、それとあまり極端なことはできませんがあなたの望みを叶えよ、と。」
ほえ~。箱入り(病室)息子の俺の記憶維持ってあんま意味なくね?
暇つぶしのゲームくらいしかわかんないんだけど・・・。
望みって言っても健康で頑丈な体ぐらいなんだよなぁ。あんまり極端なことは出来ないって言ってるし、その世界で上位に入る身体能力とか無理だよなぁ・・・。
ん~、異世界ってことは魔法とかあるのかな。やっぱり異世界って言ったら剣と魔法のファンタジーだよね。黒い鎧で大剣持ちつつ闇魔法とか使いたい。男のロマン。
「あ、その第4世界というのはどういうところなんですか?」
とりあえず情報がないと選びようがないもんね。
「申し訳ないですがそこまでは把握しておりません。何しろ私は導くだけの存在ですので・・・」
老人は申し訳なさそうにお辞儀をする。
やっぱり身体能力が良さげかな。力こそパワーとは世の理だしね。
いやちょっと待てよ、特殊能力もありかな?転生時にチート能力ゲットとかよくある話っぽいし。ん~悩みどころだ。
そういえば、この老人は何者なんだ?導くだけの存在ってどういうことだ?
「そうでしたか。ところで、導くだけとは?」
「ちゃんと説明しておりませんでしたね。改めて説明いたしましょう。ここ”世界の狭間”は各世界と繋がっているのです。そして、何らかの理由で正常に転生出来なかった場合、この家の付近に転送されてきます。そうした方々の標となるのが、この家”標の喫茶”なのです。私は、導き手のコーフィンと申します。短い間ですがよろしくお願い致します。」
老人は胸に手を当て紳士然としたお辞儀をした。
「あ、ご丁寧にありがとうございます。俺はえーっと、・・・あれ?」
俺の名前なんだっけ?死ぬの忘れちゃう感じのシステムかな?
「お気になさらず。そういうものなので。」
そういいながらコーフィンは鍋でお湯を沸かし始めた。
釈然としないけど、まいっか。
それよりも望みか・・・うーん、やっぱり健康な身体かな。前世はあの調子だし、今度こそ冒険とかしてみたいな。山を登ったり海を越えたり。剣道とか空手もやってみたいし、とにかく身体を思う存分動かしたい。そう考えると強い身体の方がいいかな?