7話 不穏な空気
―レスト村 村長の家―
数人の大人がテーブルを囲み剣呑な雰囲気を放っている。
「それは本当か!?」
「この村には何もないんだぞ!」
男達が喚き立てる。
「静かにしろ。それでダン、その根拠は」
テーブルの上座に座る老人。この村の長が怪訝な顔で問う。
「たしかにあの馬車はいつもの商人が使っていたものだ。それは間違い。問題はあの商人を名乗っていたレジンという人物だ。あいつは“レスト村担当の方が怪我で動けない”と言っていた。腐ってもギルド、そして商人なんだ。仕事の引き継ぎを疎かにするわけがないだろう?」
「ふぅむ。しかし人間なんだ、間違いがあるかも知れないだろう?」
「いや、他にもあるぞ。俺はいつもタバコを取り寄せて貰っていてな、いつもの商人なら俺が聞く前に持ってくるんだ。あいつに"いつものはまだ残ってるか?"と聞いたら、"それなら前の村で売れちまった"といった。取り寄せて貰ってるんだ、おかしいよな?」
「そうだな。商人であれば信用を落とすような真似はしないだろう。」
「だが、もし盗賊の類であれば何が目的だ!?ここには金になるようなものは少ないだろ!」
麦わら帽子を被った男が声を張り上げる。
「そうだ、たしかに少ない。しかし、人を奴隷として売り飛ばすしたらいくらかは金になる。」
村長の言葉を最後に沈黙が場を包む。
数分が経過し、村長が立ち上がる。
「では皆の者、今日から2・3日は警戒を怠るな。仮に、馬車を冒険者ギルドから奪ったものだとするならば、ギルドは商人が帰ってこないことを不審に思い、別の者をよこすだろう。それが奪った者達のタイムリミットだ。だが、冒険者ギルドを敵にするような者たちだ、無策にこのような行動をとるはずはない。いいか、女子供らをすぐに逃がせるようにしておくのだ。今日の宴はこのまま行う。ただし、酒は飲むな。わかったら解散だ。ダン、お前は残れ。」
「では準備を急ぎます!」
と、男達はぞろぞろと家を出ていく。
この場にはダンと村長しかいない。
「狙いは白衣の森か?」
村長は椅子に座りテーブルで指を組む。
「あぁ、その可能性が高いと思うぜ?奴隷として売り飛ばすとしても、わざわざこんな辺鄙な田舎まで来ないだろう。そんで、アイツは俺の事を知っていた。自分でいうのもなんだが、俺は元高位の冒険者だ。たかだか奴隷のためにそこまでリスクを負うとは思えない。そして、その上で喧嘩を売ってくるとすれば・・・」
ダンは眉を顰め、言葉尻を濁す。
「そうだ・・・な。ダン、もしもの時は・・・」
「あぁ、わかってる。命を賭けてもあの封印を死守する。ま、息子の成長を見るまで死ぬ気はないけどな!!ガッハッハ」
腰に両手を当て、胸を張り笑う。
「アルムか、あやつはお前以上になるだろうよ。」
「当たり前!なんせ俺とケーラの息子だぜ?」
「はっはっは、確かにそうだな。では、あとは頼んだぞ。儂は少し準備をしておこう。」
「おう、任せろ!」
と胸を叩き、ダンは村長の家を出る。
そして、村では宴が始まろうとしていた。