404
天文部の部員は毎年恒例のように少なくて、小夜が入部したときには、部員は綾川波先輩とそれからもう卒業してしまったのだけど、当時中学三年生だった部長の稲田穂村先輩の二人だけだった。(ちょうど今の私と先輩の関係に似ていた)
穂村先輩は部長で、綾川先輩が副部長をしていた。
二人は美男美女の関係で、私(小夜)には二人がとても眩しく見えた。(まさに星のように輝いていた)
稲田穂村先輩は物静かで優しい美人の先輩であり、小夜にも、すごく優しくしてくれたのだけど、(今でもたまに連絡を取ったりする。私のもう一人の憧れの先輩だった)一つだけ、小夜は穂村先輩に対して思うところが、……ずっとあった。
それはもちろん、小夜の片思いの相手である綾川波先輩についてのことだった。
小夜の見た感じ、(綾川先輩は口や態度には絶対にそんな雰囲気は出さないのだけど)綾川先輩はまちがいなく、稲田穂村先輩に惚れている、と小夜は思っていた。(その感は当たっていると思う。なにせ私はこの二年間、ずっと綾川先輩のことだけを見てきたのだから)
それが、この二年の間、小夜が綾川先輩に正面から思い切って恋の告白ができない最大の理由の一つだった。
稲田先輩が卒業して(小夜はこの天文部の部室の中でわんわんと泣いた)一年がたち、なにかが変わるかと思ったけど、結局なにも変わらなかった。
新入部員もいないし、このままだと天文部はさすがに廃部になってしまうかも? ということだそうだ。
稲田先輩と綾川先輩の思い出が詰まったこの天文部を廃部にするのはいやだった。しかも小夜の代で、なんて絶対に考えられないことだった。
「なにかいろいろと考えているような顔しているね。三笠さん」
いつの間にかテーブルの上に手をついて、じっと小夜のことを見ていた綾川先輩がそういった。
「先輩がいい加減だからです。このままだと天文部、廃部になっちゃいますよ?」と(綾川先輩に正面から直視されて)赤くなった顔を半分だけ、本で隠しながら小夜は言った。




