320
すると「ありがとうございます」と手で頭の後ろにあるお面を触りながらにっこりと笑って菘が言った。
その菘の笑顔を見て、はちは顔を赤く染めた。
「これ、私の大好きなヒーローのお面なんです」菘は言う。
はちは戦隊ものに疎かったので、それがどんなヒーローなのか変わらなかったけど、なんとなくそのお面は『鳥』をモチーフにしたヒーローのように思えた。
その中の赤い(きっとリーダーだろう)ヒーローのお面を松野菘はその頭の後ろにつけていた。
どこかでお祭りでもあったの? と質問しようとしてはちはやめた。なぜなら、その質問をする前に菘がそっとベンチの上から立ち上がったからだった。
はちも同じようにベンチから立ち上がった。
「そろそろ帰ります」と菘は言った。
「そうだね。もう遅い時間だからね」とにっこりと笑ってはちは言った。
「椎名先輩はこの神社のお守りの由来を知っていますか?」その赤い鳥居までの帰り道の途中で菘が言った。「知らない」とはちは答える。すると菘はこの神社の由来をはちに教えてくれた。
この神社は白い鳥を祀ってある神社だということだった。その白い鳥は人を幸福な場所まで導いてくるという伝説のある神聖な鳥で(きっと白鳩だということだった)昔、この土地で大きな災いが起こったときにも、この周辺に住んでいた村々の人々を救ったのは、この白い鳥(あるいは、その姿を形取った目には見えない神様)だということだった。
「その由来から、白い羽根のお守りが作られるようになったんですよ」と菘が言った。
「人と人の縁を結ぶお守りとして?」
「はい。その通りです」
にっこりと笑って菘は言う。
はちはずっとこの町に住んでいるけど、町の中心にある神社にそんな由来があるなんて全然知らなかった。なぜ菘がそんなことを知っているのかと尋ねると「小学生のとき、夏休みの宿題で調べました」とにっこりと笑って菘は言った。




