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 その若竹姫のすばやい動きに合わせるようにして、百目の獣姫はずっと立ち止まっていた縁側の廊下の上を(若竹姫から逃げるようにして)くすくすと笑いながら、くるりと回って、前を向いて、とても速い速度で音もなく走り出した。(生きている人間であれば、絶対に出すことのできない早さと動きだった)

 ……、早い。まるで本物の風のような速さだ。

 百目の獣姫の走る速さに驚いて、若竹姫は思う。

 若竹姫は百目の獣姫のあとを追いかける。(若竹姫は百目の獣姫の小さな後ろ姿を見失うことはなかった。それはわざとそうしているのかもしれない)

 百目の獣姫は縁側の廊下をけって、(音はまったくしなかった)そのまま柱を足場として、鳥の巣の屋根の上に移動をする。

 その間も、百目の獣姫は後ろを振り返って、笑って、赤い舌を出したりして若竹姫のことをからかったりしていた。

 若竹姫も百目の獣姫と同じ動きをして、そのまま縁側の廊下をけり、(どうしても音が鳴ってしまった)柱を足場として、鳥の巣の屋根の上に移動をして獣姫を追いかける。

 その若竹姫の動きを見て、百目の獣姫はちょっとびっくりしたようだった。(ここまでこれないと思っていたらしい)

 その若竹姫の動きは、なにかしらの武術、あるいは武道を習得しているものの動きだった。(普通の都で暮らしているお姫様にできる動きではなかった)

 百目の獣姫は、鳥の巣の屋根の上でぼんやりと美しい満天の星々の輝く夜空に浮かんでいる大きな丸い白い月の姿を見つめていた。

 若竹姫が鳥の巣の屋根の上にまでのぼってくると、百目の獣姫はそんな若竹姫の姿を見て、やっぱり、さっきと同じように白い月の光の中で、妖艶な笑みで(若竹姫を魅了するようにして)にっこりと笑った。 

 それから百目の獣姫は白い月明かりの中で楽しそうに(ぴょんぴょん跳ねたりして)その小さな体を動かして、若竹姫のことをまたからかった。(口だけを動かして、こっちにおいで、と言っているみたいだった)

 それはまるで、小さな子供が大人相手に遊んでもらっているような、構ってほしがっているような、なんだか、そんなとても無邪気な行動のように見えた。

 ……、いや、実際に百目の鬼は若竹姫を相手にして、ただ遊んでいるだけなのかもしれない。(あるいは、遊んでほしいのかもしれない)

 百目の鬼には邪気はない。だけど、ただ、そこにいるだけで、人の命を奪っていくのだ。

 ……、でも、若竹姫はそうはいかない。

 若竹姫は遊んでいるわけではない。

 若竹姫は百目の鬼を退治するために、(白藤の宮を百目の鬼から守るために)自分の命をかけてここにいる。(それが私の生まれた意味だと思った。そのために私は今日、白藤の宮が暮らしている鳥の巣を訪ねたのだ)

 若竹姫は真剣な眼差しをして百目の獣姫のことを見つめる。

 今、若竹姫の目に見える百目の獣姫の顔は、白い月明かりの下で、若竹姫の友達である玉姫の顔そっくりの姿形をしていた。(それは、百目の獣姫がそうしているのか、あるいは若竹姫が玉姫のことを思い出しているからそうなのか、どっちなのかは、よくわからなかった)

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