256 百目の獣姫 鬼さん。こちら。
百目の獣姫
鬼さん。こちら。
白い幽霊の女の子と若竹姫が出会ったのは、そんな草木も眠れる鳥の巣の遅い夜の時間のできごとだった。(夏の虫の鳴き声もなくなっていた)
ようやく眠りについていた若竹姫が何者かの気配を感じてぼんやりと目を開けると、白い襖のところに一人の人間の形をした薄い小さな黒い影があった。
……、小さな童の影。
その小さな影を見つけて、若竹姫はそっと音を立てないように気をつけながら布団の中からもぞもぞと抜け出すと、ゆっくりとその小さな影のあるところまで畳の上をするすると歩いて近づいていった。
隣の白い布団の中では白藤の宮がすーすーと、とても気持ちの良い寝息を立てながら、ぐっすりとした深い眠りについていた。白藤の宮の寝顔はとても安らかだった。きっと良い夢を見ているのだろう。そんなことを思って、若竹姫はくすっと音を立てずに笑った。
(その白藤の宮の寝顔を少しだけ見つめてから、しばらくの間、体の動きを止めていた若竹姫はまた音もなく歩き出した)
……小さな影はいつまでもその場所にあった。
誰だろう?
私の知っている子だろうか?
そんなことを若竹姫は考える。
若竹姫は白い襖のところまでたどり着いた。
それからそっとその白い襖を開けようとして、白い襖の取手のところに手をかける。すると、その若竹姫の動きに反応するようにして、小さな影がゆっくりと白い襖の中で動き出して、若竹姫と白藤の宮のいる奥の間のところから移動を始めた。
若竹姫は慌てずに、そっと、慎重に音を立てずに白い襖を開ける。
それから自分の顔だけを出して、外の様子を確認した。
すると、外は若竹姫の予想以上に明るかった。(目を覚ましたときから、夜は真っ暗闇ではなくて、うっすらとだけど明るかった)
いつの間にか雨の上がっていた空の雨雲はなくなり、晴れ渡っていて、そこには若竹姫がずっと見たいと思っていた、とても明るいまん丸のお月さまと、……、そして、空を埋め尽くすような本当に、本当にたくさんのきらきらと輝く星々があった。




