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「お風呂いただきました」

 ほんのりと湯気を出しながら、顔やその体をほんのりと赤く染めている若竹姫は、白藤の宮から借りた真っ白な寝巻き姿で、鳥の巣の中でくつろいでいた白藤の宮のところまで戻ってきた。(白藤の宮はごろごろとしていた)

 若竹姫の巻いている帯は黄色い帯で、黄色は水色や緑色と一緒に、若竹姫の大好きな色の一つだった。(子供のころはとくに好きだった)

「あらあら。色っぽいですね。ふふ。この場所に素敵な殿方がいないことが残念に思うくらいです」

 お風呂上がりの髪を濡らして、熱った体をした(妖艶な雰囲気のある)若竹姫をまじまじとみて白藤の宮はそんなことを(いやらしい顔をして)笑顔でいった。

 白藤の宮は畳の上に足を横にして崩して座っていて、右手でぱたぱたと団扇を仰ぎながら、小雨の降る夜の鳥の巣の庭を一人でぼんやりと眺めていた。

 若竹姫がお風呂場を出て、鳥の巣に戻ってくるころに、また少しだけど雨が降り始めていた。(そのことをとても残念に思った。お風呂には先に白藤の宮にはいってもらえばよかったと思った)

 そんな白藤の宮の隣に若竹姫はゆっくりと正座をして座った。

「雨、また降り始めてしまいましたね」

 若竹姫はいう。

「そうですね」

 白藤の宮は若竹姫を見て、そういった。

「若竹姫。あなた好きな殿方はいないんですか?」白藤の宮はにやにやしながら(じろじろと若竹姫のお風呂あがりの少し着物がはだけている油断している姿を見て)若竹姫にいう。

「……いません」

 とちょっとだけ間を置いて(自然をそらして、そっぽを向いて)若竹姫はいった。

「あら?」

 でも、そのちょっとだけの間を(お風呂上がりで、少しぼんやりとしている若竹姫のわずかな心の隙を)百戦錬磨の白藤の宮は見逃したりはしなかった。

(だけどそのことについては、なぜかあまり若竹姫を揶揄ったりせずに、お風呂に行ってきますねと言って白藤の宮はふくみを持たせた顔をして、そのままお風呂に行ってしまった)

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