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250 桐のお風呂

 桐のお風呂


「どうです? 久しぶりに一緒に入りますか?」

 にやにやしながら白藤の宮は若竹姫にいう。(さっき泣いてしまったことで白藤の宮は若竹姫をからかっているのだ)

 白藤の宮は暗くなった部屋の中にあるろうそくにそっと種火から火を灯して、部屋の中を明るくした。(暗がりの中でぼんやりと光る橙色の明かりが綺麗だった)

「一人で入ります」

 ちょっとだけ頬を膨らませて、若竹姫はいう。

「じゃあ、先にお風呂入っていいですよ。私はあなたのあとでいいです。一人でお風呂に入ります」となんだかつまらなそうな顔をして白藤の宮は若竹姫に言った。

「ありがとうございます。じゃあ、先にお風呂。いただきますね」と言って、若竹姫は白藤の宮の前を(笑顔で)あとにした。

 若竹姫と白藤の宮はお食事の後片付けを二人でして、それからまたはじめの囲炉裏のある部屋であったかいお茶を飲んで、少しの間、夏の夜の蒸し暑さを楽しんだあとで、そんな会話をする。開けたふすまの向こうに広がっている暗い闇の中にはぼんやりと小さく光る蛍の光が見えた。とても綺麗な光だった。(日も暮れて、少し涼しくなってきた。気持ちのいい夏の夜だと思った)

 森に降っていた雨は今はもうあがっている。

 若竹姫は鳥の巣にあるとても綺麗なお風呂場に(白藤の宮にお借りした)お風呂で使う道具を持って、移動をする。

 鳥の巣のお風呂場は鳥の巣とは別の小さな小屋のような場所にあった。

 鳥の巣の裏口から出て、(そこに置いてある草鞋を貸してもらった)短い曲がりくねった石の道を歩いてすぐのところにそのお風呂場はあった。石の道は降っていた雨でまだ少し濡れている。

(小さいけど風情のあるとても素敵なお風呂場だった)

 お風呂場には事前に白藤の宮がろうそくの火をつけてくれていたようで、明るい炎の光りがゆらゆらと灯っていた。

 お風呂場の中に入ると、若竹姫は脱衣場でその着物を脱ぎ始める。

 若竹姫の真っ白な肌がろうそくの炎の中に露わになった。

 都でも評判になる美しい若竹姫は、裸になると清楚で凛としながらも、どこか妖艶な魅力があった。(子供と大人の間を、かげろうのようにゆらめいているようだった)

 ……、裸になるのは、森の途中にある川で水浴びをしたときいらいだな。と、そんなことを若竹姫は思う。

 若竹姫はずっと頭の後ろで結んでいた髪をゆっくりとほどいて、久しぶりに自分の長くて美しい黒髪を自由にした。

 その長くて美しい黒髪は若竹姫の背中の辺りまで伸びている。

 その髪を(お風呂で使う)櫛でもう一度頭の上で結ってから、白い布をもって、若竹姫は脱衣場から、木の扉を開けて、白い湯気のこもっている、鳥の巣の桐で作られている綺麗な(いい匂いのする)お風呂場の中に入っていった。

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