240/452

２４２

　綺麗な橙色をした鯛は白藤の宮がとても綺麗に捌いてくれた。

（密かに料理の練習をしていた若竹姫だったけど、流石にまだ鯛を綺麗に捌くことができなかった。白藤の宮は本当に見事に鯛を捌いた。そんな白藤の宮を見て私はまだまだだなと若竹姫は思った）

「これ、とっておきの器なんですよ。でも今日は『特別な日』だから使っちゃいますね」と言って、白藤の宮はこそこそと台所の奥に隠してあったとても綺麗な真っ白な少し変な形をした大きめの器（異国の大きな木の葉っぱみたいだった）を持って、とても楽しそうに笑いながら若竹姫に言った。

　その器は確かにとても美しい、とても素晴らしいまるで見ていると白の中に吸い込まれてしまうような感じがする器だった。（きっと名のある陶芸家が焼いた、とても希少で、高価な器なのだろう）

　その器には一輪の花の絵が描かれていた。

　薄紫色の花。（はっとするような美しさがあった）

　最初、その花が白藤の宮の名前の由来になった藤の花かと思ったのだけど、どうやらよく見ると、それは桔梗の花であるように思えた。

　白藤の宮はその桔梗の花の絵が描かれている美しい真っ白な少し変な形をした器の上に綺麗に切った鯛のお刺身を盛り付けていった。（その一つ一つの仕草、動きすら美しかった）

　若竹姫はその間、そんな白藤の宮の料理の技術（作法）を横目にそっと盗み見ながら、土鍋の中のご飯の様子を確かめながら、（白い湯気が美味しそうに土鍋から漏れていた）自分が作っているお味噌汁の中にそっと、隠し持ってきた秘伝のお味噌を入れて、ゆっくりとお湯の中に溶かしていった。

「いい匂い。懐かしくて、まるで都にいるみたい」

　そのお味噌汁の匂いを嗅いで、にっこりと笑って白藤の宮は若竹姫を見てそう言った。