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 鮮花とそんな話をしてから数日後の日曜日。

 結衣はその日、一人で桜の舞う小さな坂道を歩いていた。

 そこは映画、恋坂の舞台となった場所だった。

 今から二年くらい前、この場所で十六歳の結衣は、恋坂の主役の素朴な女子高校生役として、この坂を今と同じように、満開の桜を見ながら、上っていた。

 結衣はそんな思い出のある坂道を上りながら、もう絶対に私は恋なんてしないんだ、と心に誓っていた。

 こんなに辛い思いをするのなら、恋なんてしない。

 親友の、それも幼馴染の恋人のことを好きになってしまうくらいなら、恋なんてしないほうがいいと思った。

 それに、恋なんてしなくても、私には夢があるとも思った。

 アイドルの夢。

 その夢に私の青春の、いや、人生のすべてをかけようと、そう平結衣は決心をしていた。

 結衣は坂道を上り終えた。

 するとそこには小さな神社と公園があって、その場所にいくための道の前には小さな赤い鳥居があった。

 その場所には、映画、恋坂であれば、結衣の恋をする相手である男子高校生役の小坂慶太くんが立っているはずだった。

 でも今は、当たり前だけど、そこには誰の姿もないはずだった。

 結衣を待ってくれている相手なんて、この世界のどこにも存在していないからだ。

 しかしそこには、一人の少年の姿があった。

 一瞬、結衣は頭の中で、その少年の姿に小瀬蓬の姿を重ね合わせてしまった。

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