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それからしばらくの間、早月は奏での腕の中で泣いていた。
……静かに、だけど、小さな子供のように泣き続けていた。
「……ありがとう、奏」
早月は言う。
「もう大丈夫?」
「うん。もう大丈夫」
早月はそっと奏の腕の中から離れる。
ずっとこうしていたいと思う。
でも、甘えてしまったらもう二度と、私はこの腕の中から、外には出られなくなってしまいそうだと早月は思った。
「やっぱり、今日は奏に家まで送ってもらうかな?」
恥ずかしそうに顔を赤くしながら早月が言う。
「うん。いいよ」
にっこりと笑って奏が言う。
それから二人は手をつないで雪の降る夜の駅のホームの上を歩き始める。
二人は改札を抜けて、近くのコンビニでビニールの傘を買って、その傘をさしながら、二人で一緒に歩いて、早月の家まで移動した。
その間、二人はずっと無言だった。
……でも、二人の手は、ずっとつながったままだった。
「今日は本当にありがとう」
家の前で早月が言った。
「どういたしまして」
優しい顔で、奏が言った。
それから二人はそこで優しいキスをした。
それから早月は奏と家の前で「またね」と言って、お別れをした。悲しくなるから「さよなら」は言わなかった。
そして二人は、離れ離れになった。
その日の夜、早月はベットの中で懐かしい夢を見た。




