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早月は黙った。
「僕は陸とは違う。僕は絶対に早月の前からいなくなったりしないよ」
奏は言った。
早月は黙ったまま、じっと奏の言葉に耳を傾けている。
「僕は一生、早月のことを守るよ。僕は早月を絶対に一人になんてしないよ」
「……本当?」
早月は言う。
「うん。本当だよ」奏は言う。
「……ありがとう」
早月は言う。
瞬間、早月の目から涙が溢れる。
早月はぎゅっと奏の体に、しがみつくようにして、奏の背中にそっと、その両手を回した。
もう周りの人の視線なんて全然気にならなかった。
真っ暗な冬の空からは、あの日と同じように真っ白な雪が降っている。
クリスマスイブの日に降る雪は、二人の抱き合っている夜の駅のホームの周りに降り続いている。その雪を見て、早月は死んでしまった自分の幼馴染である如月陸のことを、いつものように思い出す。
……陸。
どうして、死んじゃったの?
早月は、陸のこと思う。
中学二年生の年に、陸が死んでしまったことに、……どうして陸が死んでしまったのかという問いに、……答えなんて、きっとない。
そんなことは、……早月にだってわかっている。
でも、考えずにはいられない。
陸が生きていたら、私たちは今頃、どうなっていたんだろうって、そういうことを、考えずにはいられないのだ。
陸。
「……陸」早月は言う。
「陸のことはもう忘れなよ。早月には僕がいるよ」
奏が言う。




