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真由子はそれから久しぶりに新宿御苑まで足を伸ばした。
そこで真由子は緑色の公園の中を散歩して、たくさんの美しい木々を見た。
あの人とすれ違ったのは、その帰り道のことだった。
あの人は道の向こう側から真由子のほうに向かって歩いてきた。
もうずっと昔のことだったのだけど、真由子はそれがすぐにあの人だということがわかった。
なぜならあの人は、今も当時と同じようなぼろぼろのスーツを着て、ぼろぼろの靴を履いていて、ぼさぼさの頭をしていたからだった。
なによりも、あの人の目は昔と同じように今もきらきらと輝いて見えた。
だから小島真由子には道の向こう側から歩いてくる男性が、柳田康晴先生であるということが、一目でわかった。
きっと、柳田先生も真由子のことに気がついたと思う。
真由子は学院時代のころに比べると、結婚もして、随分と変わったけれど、その本質的な部分は、今もなにも、あの幸せだった学院時代のころの自分と変わっていなかったからだ。
だから、柳田先生なら、すぐに私だと気がついてくれると思った。
実際に、柳田先生は歩いている真由子の姿を見て、一瞬だけ動揺したように見えた。
先生が、……私に気がついた。
そう真由子は思った。
柳田先生は平然を装うと、それからすぐに何事もなかったかのように、また道の上を歩き始めた。




