表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

156/452

233

 それは、広くて高い、透き通るように透明な冬の青空がオレンジ色に染まり始めた、夕方の時間帯のことだった。

 そこには平結衣がいた。

 結衣は愛犬のプードルを散歩させていたようだった。

 結衣はちょうど、明里が歩いて行った天橋とは反対側の天橋の入り口のところに立っていた。

 結衣の声を聞いて、明里が結衣を見て、それから蓬が結衣のほうを振り返った。

 そのとき、蓬がどんな表情をしていたのかは、明里からはわからなかったけど、結衣の表情はとてもはっきりと見ることができた。

 結衣は本当に、すごく、まるで幽霊でも目撃したみたいに驚いた顔をしていた。

 でも明里にはなぜ結衣がそれほど、なにに(もしかしたら私が結衣の知らない男の子と一緒にいたからだろうか?)驚いているのか、その理由がまるでわからなかった。


 平結衣は、久しぶりに見る小瀬蓬と(一目でそれが蓬だと結衣にはわかった)一緒にいる幸せそうな明里の姿を見て、以前に明里が言っていた好きな人、というのが、夏に結衣が出会ったあの冴えない男子高校生、小瀬蓬のことであるということを一瞬で理解した。

 それから結衣は久しぶりに思い出した。

 可愛くて、真面目で、頭も良くて、性格もいい、まるで本物のお姫様みたいだった幼馴染の明里がこうして、いつも自分の大切なものを、自分の本当に欲しいものを、ずっと昔から、明里といつも一緒にいる結衣から、奪い去ってしまうのだということを……。

「あの」

 と蓬が言った。

 その声を合図にして、平結衣は愛犬を抱えるように胸に抱いて、そのままその場を逃げ出すようにして、走り出した。

 それからすぐに、どこか遠くのほうで、自分を呼ぶ、明里の声が聞こえた気がした。

 でも、結衣は絶対に、もう二度と、……後ろを振り返ったりはしなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ