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明里はなにか嫌なことや落ち込んだことがあったときには、前生徒会長に会いに行くか、もしくはこの愛川公園までやってきて、天橋の上で一人でぼんやりと過ごすことが習慣となっていた。
今日も明里は落ち込んだ気持ちを少しでもすっきりさせるつもりで、この公園までやってきた。
前生徒会長には少し前に相談に乗ってもらったばかりだし、それに何度も前生徒会長に甘えるのは、現在の生徒会長としての明里としては、よくないことだとはわかっていたので、悩んだ結果、愛川公園のほうを選んだのだった。
だから、別に明里は伝説とか運命の出会いとか(そりゃ、まったく期待をしていなかったわけではないのだけど……)そういうことを期待してこの天橋までやってきたのではなかった。
だから明里の目は驚きでその人の姿に釘付けになった。
……あの人だ。
明里は橋の入り口のところで足を止めて、そこからじっと彼の姿を見つめた。
彼は明里が思っていたほど、変わってはいなかった。
背は明里よりも少し高いくらいで、髪が癖っ毛のぼさぼさで、あのときと同じ制服を着ていて、あのときと同じカバンを手に持っていて、あのときと同じように彼は独りだった。
彼は赤色に塗られた天橋の手すりに両手を乗せて、ぼんやりと空を見ていた。
彼はあのときと同じように明里のことをまったく見てはいなかった。
明里はそこから、じっと空を見ている彼を見ていた。
……ずっと止まっていた自分の時間が、動き出すのを明里は感じた。




