196 椛 もみじ ……私は、ずっと愛を探していた。
椛 もみじ
……私は、ずっと愛を探していた。
高松小春は高校一年生の年の春に、恋をした。
場所は区内の図書館の中で、相手は名前も知らない他校の男子高校生だった。その生徒の着ている制服は都内でも有数の進学校の制服で、その高校は男子校だった。
小春が初めてその男子高校生に気がついたのは、四月の終わりごろで、小春が勉強をしに図書館に行くと、その学習席に彼はいた。
彼は勉強に少し疲れたのか、うーんと背伸びをして、目の前にある窓から、外に咲く桜の花をじっと見つめた。
小春はその人の姿を見て、一目で恋に落ちた。
そしてその日から、小春が図書館に出かける理由が一つ、増えることになった。
彼は大抵、日曜日には図書館にいて、いつも学習席で勉強したり、あるいは閲覧席でなにか難しそうな本を読んだりしていた。
小春はなるべく彼の近くの席に座って、勉強をした。
いい席(彼の目の前とか)に座れる日は、勉強はとても捗った。
けれども、彼がいない日は、なんだかあんまり勉強は捗らなくなってしまった。
小春はそんな、彼と図書館を中心とする生活を三ヶ月の間、続けた。
そして夏の始まりである六月が終わり、七月が始まったころに、自分の恋の悩みを親友である、同じクラスの生徒、四ツ谷恵に小春は相談をした。
恵は小春が他校の名前も知らない男子高校生に恋をしていると聞いて、とても驚いた顔をした。
小春と恵の通っている高校は中学からエスカレーター式で進学ができる中高一貫の学校だったのだけど、小春と恵はともに、中学からではなく、高校からの入学組だった。
そんな共通点もあって、二人はとても仲良しだった。




