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「……うん」絵里は言う。
それから、二人は無言になった。
「……真冬のこと、忘れられないのかよ」忍は言う。
「うん」絵里は言う。
「真冬は俺とお前の親友で、真冬の恋人の早乙女はお前の親友だろ?」
「うん」
「それなのに、お前はずっと真冬が好きなのかよ」
「うん」
下を向いていた絵里は、顔を上げて、ようやく忍の顔を見た。
「山吹。……お前、すごく馬鹿だな」忍は言う。
「……うん」
にっこりと笑って絵里は答える。
「……まあ、馬鹿はお互い様だな」忍は言う。
「一応言っておくけどさ、俺は真冬の親友だから、真冬と早乙女がすごくお互いのことを大切にしているって、知ってるからさ、俺は早乙女と山吹なら、早乙女のほうを応援するぜ。……俺のお前に対する気持ちは関係なくな」
「うん。それでいいよ」
絵里はハンカチを出して、目元を拭う。
いつの間にか、絵里はちょっとだけ、泣いてしまっていた。
「……悪い」
絵里は無言。
「……とりあえず、俺はお前のこと、ずっと好きだよ。だから、今度はお前が俺に告白するつもりになったら、こんな風に呼び出してくれよな。少なくとも、こんな馬鹿な話をするために呼び出すことは金輪際やめてくれ」忍は言う。
「うん。わかった。約束する」絵里は言う。
「……じゃあな」
忍は言う。
それから忍は一人で、図書室から出て行ってしまった。
……きっと、絵里の幼馴染である忍には、これから絵里がいっぱい泣くことが、理解できていたのだろうと、夕日の差し込む秋の図書室の中で、山吹絵里は、一人、思った。




