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 絵里はなにも忍に言えなかった。

 忍も、そのあとは絵里になにも言わなかった。

 二人はそのまま、少しの間、お互いに無言のまま花火を見たあとで神社の境内から移動して、家路についた。

「行こうぜ」そう言って絵里の手を引っ張ってくれたのは忍だった。

「うん」

 絵里は下を向いたままそう言った。

 なんだか、忍の顔が、見れなかった。

 二人はお祭りの人波を抜けて、家路についた。

 その間、何人かの中学校の友人たちにあったが、そのときだけ、絵里はいつもの絵里に戻ることができた。

 友人たちの前では二人はその手を離していた。

 それからしばらく歩くと、急に人が少なくなった。

「……さっきのことは、とりあえず忘れてもらってもいい」忍が言った。

「だけど、返事は待ってる。絵里の好きなときに、してくれればいい」

「……うん。わかった」

 絵里は答える。

 夜空には、また綺麗な花火が咲いている。

 この花火を真冬も、きっと芽衣と一緒に、この街のどこかの場所から見ているのかと思うと胸が苦しくて、いっぱいになった。


 夏休みが終わって、二学期が始まった。

 それからすぐのある日のお昼休みの時間。

 絵里は忍を図書室に呼び出した。

 それはもちろん、夏のお祭りの日の忍からの告白の返事をするためだった。

「……森野。ありがとう」絵里は言った。

「でも、森野。私は今、森野とは付き合えないよ。……私、まだ柊木くんのことがやっぱり好きなままなんだ」

 忍は無言のままだった。

 ……怒らせちゃったかな? 絵里はそっと忍のほうに顔を向ける。

 すると忍は絵里のことをじっと見ていた。

 その顔はにっこりと笑っていた。

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