表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/10

第七章「溜め息と共に」


 ――それは、彼女と海遊館に行ってから約三・四日ほど経った日の夜のことだった。


 近くのコンビニで買ってきた735円の弁当を、狭いリビングでひとり、寂しくガツガツと食べていると、突然、ズボンのポケットに入れた携帯電話がジャンジャカと騒がしく鳴りだした。

 俺は『はいはい』と言って箸を机に置くと、ポケットから急いで携帯電話を取り出した。携帯電話の液晶画面をよく見ると、画面上に太い大きな字で『小山龍之介』と表示が出ている。小山さんだ。


 「ふぁい。もしもし? 雨宮ですが?」

 「あぁ雨宮さんですか? どうもこんばんは。小山です」

 「あぁ小山さん。どうもお久しぶりです。ん? というより、えっと……その、どうかされましたか? こんな時間にお電話だなんて。珍しいじゃないですか」

 俺はオホンと咳をつくと、ズズズと熱いお茶を啜った。

 「あぁいえ、その、今回の仕事の件に関して、雨宮さんに少し言っておきたいことがあったものですから」

 「えっ? 俺にですか?」

 「えぇ。今回の新しい契約者、 “藤井美咲”について、少しお話が」

 「藤井美咲ですか?」

 「えぇ、藤井美咲です」

 「その……美咲さんがどうかしましたか?」

 「えぇ、ちょっと」

 「ちょっと……?」

 俺はコトンと、静かに湯呑み茶碗を机の上に置く。

 「実はつい先ほど、藤井美咲が勤め先の会社で大きな大失敗をしでかしたと、そうこちらに連絡が入ったんです」

 「は? えっ? み、美咲さんが会社で大きな大失敗をしでかした? えっ? いや、そっ、その……それがどうかしたんですか? 失敗なんて誰でもすることでしょ? というより、現に俺だってもう何百回と大失敗をしでかしてますし……」

 「あぁいえ、はい。確かに雨宮さんのおっしゃる通りです。人間は絶対に失敗をする生き物ですし、それに第一、失敗をしない人間なんて誰も居ません。その、違うんです。とにかく、私がこうして雨宮さんにお電話を差し上げたのは、今後の雨宮さんの任務に関して、少しご説明をと思いまして……」

 「今後の任務……ですか?」

 「えぇ、今後の任務です。雨宮さんの今後の具体的な任務予定をざっと申し上げますと、今から約四十分後の午後九時十七分に、藤井美咲は高槻市にある勤め先の会社を出て、阪急京都線の河原町行き特急電車に乗車します。こちらの情報によると藤井美咲は、この電車の中で泣く可能性があるということで、つい先ほど雨宮さんに任務待機命令が発令されました」

 「えっ? 今、任務待機命令出てるんですか?」

 「えぇ。ですから、今すぐ阪急高槻市駅へ向かってください。それからしばらく現場での任務待機となります」

 「あぁはい。そうですか、わかりました。それでは、今すぐ高槻市駅へ向かいます。あ、もちろん “クリア任務 ”ですよね?」

 「えぇもちろん。でなければ少し厄介なことになりますしね」

 「ですよね……」

 「えぇ」

 「わかりました! それでは今から……」

 「あぁ、雨宮さん」

 「えっ? はい? なんでしょうか?」

 「その……あまり無理だけはしないように気を付けて下さいね。キツい仕事ですので」

 「あぁ、はい。ご心配どうもありがとうございます」

 「いえいえ、それではどうかお気を付けて」

 「はい。ありがとうございます。それでは」

 「いえいえ、それでは」


 ――プツッ、ツーツーツーツーツー……

 ――ピッ


 俺はハァーッと深いため息をついて、携帯電話を机の上にコトンと置くと、しばらくぼうと壁にかかった時計を眺めた。

“今何時なんだろう? ”と、目を細めると、時刻はちょうど八時四十分を過ぎたところだった。

 

しばらくして俺は、クローゼットからマフラーと手袋を取り出すと、黒い厚いジャケットを身にまとって外へ出た。


外は相変わらず寒かった。


     *             *             *


俺が阪急高槻市駅へ到着したのは、午後九時七分。藤井美咲が現れるという午後九時十七分の約十分前だ。

俺は電車から降りて、プラットフォームのベンチにそっと腰をおろすと、胸ポケットから小さな一枚の鏡を取り出した。

その小さな一枚の鏡を覗くとそこには、一人の若い青年が映っていて、よく見るとその青年は何だかとても元気がなさそうで、俺がハァーッと深いため息をつくと、同じくその青年もハァーッと深いため息をつき、俺は何だかとてもやるせない気持ちになって、ただ呆然と線路を眺め、 “あぁあの線路に飛び込めば、俺はもうこんな仕事をしなくて済むんだろうか? 死んで、今度こそはちゃんと成仏できるんだろうか? ”なんて、そんな後ろ向きなことを考えた。だが、現実はそう甘くない。いや、甘くてはいけないのだ。

俺は自分を奮い立たせるようにしてベンチからバッと立ち上がると、右手をスッと高々と上げ、それからパチンと軽く指を鳴らした。


――その瞬間。


鏡に映った青年は、まるで水が蒸発するかのように、スーッと跡形もなく、プラットフォームからその姿を消した。


“感情操者は、時と場合によって、その姿を自由自在に消すことができる ”


自分自身の姿を消すという行為は、感情操者にとってみれば、言わば朝飯前で、自分自身の姿を消したいと思った時に、指をパチンと一度鳴らしてしまえば、たちまち自分の姿は人間の前から消えてしまう。そして、そうやって自分自身の姿を消した状態で仕事に就くことを感情操作用語で『クリア任務』といい、俺は今からこの『クリア任務』に就くと、そういう訳なのだ。



――そして、藤井美咲を待つこと約十分。


小山さんが電話先で言っていたように、藤井美咲は午後九時十七分きっかりに、プラットフォームに現れた。

白い長いコートに、茶色のマフラー。黒いブーツ。

プラットフォームに現れた彼女は相変わらずとても綺麗で、相変わらず俺の目を奪ったが、彼女はいつもと違って、やはりどこか悲しげだった。

ショボンと俯き、ハァーッと深いため息をついて、プラットフォームから見える上弦の月をそっと眺めて、彼女はまたハァーッと深いため息をついた。

そして俺はそんな彼女を、ただぼうと眺めた。そして俺は思わずその瞬間、そんな彼女の元へと駆け出したくなった。彼女の肩をポンと優しく叩いて、『美咲さん。どうか元気を出して』と、彼女を励ましたくなった。『俺はいつでも、どんな時でも、あなたの幸せを願っています。俺は、美咲さんの味方です。だからどうか元気を出して下さい』と。

だけど結局、俺は何も出来なかった。俺はそんな彼女のことを、ただ静かに、じっと遠くから見つめることしか出来なかった。

そして俺はそっと、遥か上空の月を見上げた。相変わらず、月は綺麗だった。

俺はフーッと白い息を吐くと、冷えた両手をズボンのポケットの中に入れた。

やがて、遥か遠くの方から、電車のパァーンという長く響く汽笛が聞こえ、それと同時に、電車のヘッドライトの明かりが、暗闇にちらりと見えた。

もうじき電車が来るんだなと、その時俺は思った。


     *             *             *


――しばらくして電車がやって来た。


俺はそっと彼女の後ろに忍び寄って、チョコレート色の車両が止まるのを待った。

やがて列車はキィィィと甲高い音をたててホームに止まった。ガーッとドアが開いて、ドッとたくさんの人達が列車から降りて、それから彼女と俺は列車に乗り込んだ。


車内はがらがらに空いていた。おそらく、ほとんどの人がここで降りてしまったのだ。

彼女はそっと長イスの端っこに、俺は彼女からちょうど一メートル程離れたところに、そっと腰を下ろした。


そっと彼女の方に目をやると、彼女は相変わらず暗い悲しい顔をして、向かいの窓の向こう側に見える、冷たい夜の街を、ただぼんやりと眺めている。


――よほどの大失敗だったんだろうか?


そんなことをふと思いながら、しばらく彼女をぼうと見つめていると、プシューッとドアが閉まり、やがて電車は走り出した。

電車は、阪急河原町駅を目指して、グングンとスピードを上げてゆく。


――加速する夜の街。


俺はそんな窓の向こうの夜の街を、ただ静かにぼうと眺めると、またハァーッと深いため息をついて、今度は、左へ右へと揺れるつり革をじっと見つめた。


――俺はその時、何故か少し悲しかった。


そっと目を閉じて、これはきっと彼女のせいだと、そう俺は心の奥底で思った。

理由なんてわからない。ただ、暗い暗闇の中を、彼女の笑った顔や泣き顔、怒った顔や喜んだ顔、そんな彼女のいろんな顔がぽうと浮かんでは、スーッと消えていった。


――俺は一体、彼女に何を求めているんだろう。

優しさ? 思いやり? それとも……


――あぁ違う。


俺はそこまで考えて、パッと目を開けた。

少し薄暗い車内は、ガタンゴトンという音で満たされていて、彼女と同じように、会社で散々怒鳴られ、散々ミスをし、散々疲れ果てた、サラリーマンや、OL達がガーッと口を開けて、ぐっすりと眠り込んでしまっている。


そして俺は、またそっと彼女の方へと目をやった。


長イスの端っこに座る彼女は、相変わらず暗い悲しい顔をして、ショボンと俯いているように見えたが、よくよく見ると彼女もまた、ガーッと口を開けて眠るサラリーマンやOL達のように、スーッと小さな寝息をたてて、ぐっすりと眠り込んでしまっていた。


なんだ、寝たのか。


俺はぐっすりと眠り込む彼女の顔を見て、思わずクスッと笑った。


相変わらず、眠る彼女の横顔は綺麗だった。

スヤスヤと眠る彼女はまるで、童話やおとぎ話に出てくる遠い国のお姫様のようで、俺はまたしばし我を忘れて彼女を見つめ、それから『あぁ時が止まればいいのにな』なんて、そんなことをぼんやりと思ったりした。


――と、その時。


ポケットの中の携帯電話がまたブーブーと震えだした。

俺はそれでふと我に帰ると、ポケットから急いで携帯電話を取り出した。

携帯電話の液晶画面に目をやると、『メール一件』と、表示が出ている。メールBOXを開くと、見慣れた差出人の名前がそこにあった。


――感情操作事務局だ。


『任務執行命令が出ました。直ちに任務を執行してください』

俺は数秒でメールに目を通すと、パタンと携帯電話を閉じ、それをまたポケットの中にしまい込むと、スッとその場から立ち上がった。


「任務執行か……」

俺はぼそっとそう小さく呟くと、彼女をじっと静かに見つめた。

相変わらず、眠る彼女の横顔は綺麗だった。


     *             *             *


俺はそっと、彼女の元へと歩み寄ると、静かに彼女の隣に腰掛けた。背もたれにもたれかかり、流れる夜の街をまたぼうと眺める。

俺と彼女の距離は約三十センチ。もちろん彼女は今、俺を中心とした半径一メートルの円内に居るわけで、彼女は当然涙を流し始めるはず。

だがその時俺は、本当はそんなことはどうでもいいと、任務なんて本当はどうでもいいと、そう思っていた。俺はただ、隣でスーッと小さな寝息をたてて、穏やかに眠る彼女のことだけを考えた。


もし、もしも自分が三年前のあの日に、バイクで事故を起こしていなければ、もしも自分が彼女の恋人だったら、彼女の恋人として、自分が彼女を慰めてあげることができるのならば、きっと……きっと俺は、こんなにも苦しくて悲しい想いをしなくて済んだんだ。


なんて、そんなことを考えながら、俺は流れる夜の街をぼうと眺め、三・四日前に彼女と出掛けた海遊館での出来事、彼女と交わした何の変哲もない会話のやりとり、オレンジ色に染まった大阪港で彼女と肩を寄せ合ったこと。彼女が言った言葉。そんな彼女との様々な思い出を、ふと何気なく想い返した。


俺はそっと目を閉じた。


目を閉じた瞬間、俺の目の前にスーッと彼女が現れた。俺の目の前に現れた彼女はニコニコと微笑んでいて、とても幸せそうに見えた。

『早く彼女の笑顔が見たい』俺はその時、心の奥底から、そう強く思った。


     *             *             *


しばらくして電車は、終着駅である阪急河原町駅へと到着した。

俺はそっと彼女の傍から立ち上がると、開いたドアの前に立って、またハァーッと深いため息をつき、『あぁ俺は一体、何回ため息をつけば気が済むんだろう』なんて、そんなことをぼんやりと考え、それからそっと彼女の方へと目をやった。


すると、彼女はまだスーッと小さな寝息をたて、ぐっすりと眠り込んだままで、まったく起きる気配が感じられなかった。このままでは彼女は車庫送りか、または大阪送りになってしまう。いけない。いけない。彼女を起こさないと。

俺はおいおいと、溜め息まじりに彼女の傍へと近寄ると、右手をスッと高々と上げ、パチンと軽く指を鳴らした。


――クリア任務終了だ。


「美咲さん! 美咲さん!」

「……」

「起きてください。河原町着きましたよ」

俺はそう言って、トントンと彼女の肩をたたく。

すると彼女は『ん〜』と低い唸り声をあげて渋い顔を浮かべ、『もうヤダ』と訳の分からないことを言い、それからまたガクッと俯いて、スーッと小さな寝息をたてて眠りだした。


俺はおいおいとまた溜め息をつくと、『仕方ないな』と呟いて、眠る彼女をよいしょと背中に背負い、それからプラットフォームへと降り立った。

ふと立ち止まり、頭上の時計をスッと見上げ、『もうこんな時間か……』と、ポツリと呟き、再び俺は歩き出した。

プラットフォームの階段を上り、河原町の長い地下道をしばらく歩き、適当な出口を見つけて外へ出る。外へ出ると、ひんやりとした冷たい夜の風が頬を撫でた。

ふと夜空を見上げると、相変わらず上弦の月がぼんやりと空に浮かんでいて、俺は彼女を背中に背負ったまま、しばらくその場に立ち尽くして、ただその月を眺め、『綺麗だな……』と俺はひとり、静かにそう呟いた。


ひゅるりと頬を撫でる冬の冷たい夜風。街を照らす街灯の明かり。

そして、彼女のつける香水の少し甘い香りが、何故か俺の心を少し、悲しくさせた。


――俺はきっと、彼女のことが好きなんだ。


俺はその時、心の奥底で、そう強く思った。でも、叶わない恋だった。


     *             *             *


――彼女を背負い歩き続けること約数十分。


自分達のマンションまであと数分というところで突然、彼女が唐突に口を開いた。


「ねぇ、ここどこ?」

俺は思わず『えっ?』と声をあげると、その場にピタッと立ち止まった。

「あぁえっと、その……マンションの近くです。マンションのすぐ近く」

「マンションの近く? あれ? 私……」

「あぁ、美咲さん、さっきまで阪急電車の中で爆睡してたんですよ。俺、ちょうど大宮の方に用事があったから、河原町駅に行って、さぁ電車に乗ろうって思ったら、誰も乗ってない車両の中で美咲さんがひとり爆睡してるのを見つけて、俺、『美咲さん』って言って、美咲さんを起こそうとしたんですけど、美咲さんなかなか起きてくれなくて、それで……」

「それで、こうやって私をおんぶして、わざわざマンションまで送ってくれてるってこと?」

「えっ、あぁはい。そういうことです」

俺はそう言って優しくニッコリと微笑むと、再びゆっくりと歩みを始めた。

「そっか、そうなんだ。……ありがとう。というより、ごめんね。なんか迷惑かけて」

「迷惑だなんてそんな……大したことじゃないですから。どうか気にしないでください」

「うん、ありがとう」

「いえいえ、どう致しまして」

「うん。というより……新入り君って、案外優しいんだね。びっくりしちゃった」

「ん? あれ? 知らなかったんですか? 俺、もともと優しいんですよ?」

「あぁ〜自分でそういうこと言っちゃう? 普通言わないよ?」

「俺は普通の人じゃありませんので」

「またそうやって屁理屈言う。というより、普通の人じゃないって、どういうことよ?」

「さぁ? どういうことでしょう?」

「もう、わかんないから聞いてんのに! ホント意地悪だな〜新入り君は」

「ハハハ」

「ハハハじゃないっ! もう……」

「ごめんごめん」

「うん」

「まぁとにかくその……今日はお疲れ様。今日は帰ったら早く寝たほうがいいよ。なんか、顔見てると凄く疲れてるしさ。というより、会社で何かあった? そんな暗い顔して」

「えっ? あぁうん、ちょっとね。今日、会社で大失敗しちゃったの。会社の大事な大事な書類を私、なくしちゃって……」

「うん」

「それで、会社の企画が台無しになっちゃったの。今まで頑張ってやってきたことが、一瞬で水の泡になっちゃって……」

「そっか……」

「あぁもう、あんな会社もう辞めたい」

「辞めたら?」

「バカ。そんな簡単に辞められるんなら、とっくにあんな会社辞めてるわよ」

「だよね、ごめん。変なこと言って」

「ううん、まぁ別にいいの。私だって本当はあんな会社早く辞めたいんだから」

「うん……」

「ねぇ、ところで新入り君」

「はい」

「突然変なことを言うようだけど、私ね、自分でも何か、全然訳がわからないんだけど、さっきから涙が止まらないの。ずっとずっと涙が止まらないの。訳も分からずに、目から涙が溢れて、全然止まらないの。ねぇ、どうしてだと思う?」


――その瞬間、俺はまたピタリと足を止めた。


そして、ゆっくりと深呼吸をして、遥か上空に見える上弦の月をそっと静かに眺める。

「きっと……」


『きっとそれは俺のせいです』俺はその瞬間、彼女にそう言いたくなった。


「きっと?」

彼女の霞んだ小さな声が、俺の耳元で聞こえる。だが結局俺は、その言葉を口にすることができなかった。


「きっと、よほどショックだったんですよ。自分でも気付かないぐらいに」

俺は暗い沈んだ声でそう言った。それから、

「だけど、この世に完璧な人間なんて、誰も居ないんじゃないですか?」と続けた。

「人間は、涙を流せば流すほど、強く、優しくなれるんです。人は誰でも失敗します。だけど、そのあと自分がどうするかによって、今後の人生は変わってきます。俺は……美咲さんの辛さを全てわかってあげられるという嘘はつけません。でも、受け止めて、半分にしてあげることならできると思うんです。どうか安心してください。俺は、いつでも美咲さんの味方です。例え、全世界を敵にまわそうとも、俺は美咲さんの味方です」


――そしてその瞬間。


彼女は突然、バカバカと言って俺の背中を叩き、大声をあげて泣き出した。

正直、驚いた。何せ、こんなに激しく泣く彼女を、俺は今までに見たことが無かったからだ。

俺はひとまず彼女を落ち着かせるために、『大丈夫ですよ』と言って、ニッコリ優しく微笑むと、『さぁ早く部屋に帰りましょう。こんな所にいつまでも突っ立ってたら、風邪ひいちゃいますよ』と、泣く泣く彼女を静かに宥めると、俺は再び歩みを始めた。


スッと上空を見上げると、天から白いモノがふわりふわりと舞い落ちてくるのが見えた。


――雪だ。


「美咲さん、見てください。雪ですよ」

俺は笑顔で彼女にそう告げると、また静かにスーッと深呼吸をした。


冷たい冬の夜風の匂い。そして、彼女のつける香水の、少し甘い香りが相変わらず俺を少し、悲しくさせた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ