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毎日が南の島の夏休み  作者: ロッドユール
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幽霊の正体

 人影はゆっくりと階段を下りて来て夏菜たちとの距離を縮める。近づくにつれ、人影は、徐々にはっきりとその姿が見えてきた。

「わっ、出た。出た。幽霊だ。幽霊」

 幸子は夏菜の背後に隠れながら、人影に向かって指を差し叫んだ。

「幽霊じゃないわ。ちゃんと足があるもの」

 夏菜は落ち着いて言った。

「えっ?」

 幸子は幽霊の足元を見た。

「あっ、本当だ」

 確かにはっきりと二本の足が見えた。

「あなたは誰?」

 夏菜が尋ねた。

「私はホームレスです」

 それはホームレスのおじさんだった。

「なあんだ。ホームレスのおじさんなら怖くないわ」

 幸子は夏菜の背後から安心して出てきた。

「なんだ。幽霊に会えると思っていたのに。がっかりだわ」

 夏菜は本当に残念そうに言った。

「大丈夫。幽霊もいますよ」

 ホームレスのおじさんが言った。

「やっぱりいるの」

 幸子は暗い屋敷を見回した。

「はい、ちゃんといますよ。私たちも時々会うんです。運が良ければきっとあなたたちも会えますよ」

「楽しみだわ」

 夏菜が言った。

「私は全然楽しみじゃない」

 幸子が呟いた。

「あら、かわいいホームレス」

 夏菜が下を見下ろした先に、ちっちゃな女の子が立っていた。

「この子は孤児なんです」

 すると、あちこちの部屋から、たくさんの大人や老人や女性や子供たちのホームレスの人たちがわらわらと出てきた。

「わあ、たくさんいたのね」

 幸子は目を見張った。

「さあ、お腹が空いているでしょう。ちょうど食事の準備ができたわ」

 奥の食堂から、恰幅の良いホームレスのお母さんが出てきてそう叫ぶと、みんなから大歓声が上がり、それと同時に屋敷中にパッと明かりが灯った。

「やったぁ~、おなかペコペコ」

 幸子も飛び上がって歓声を上げた。

 食堂に入ると、その真ん中に置かれた真っ白なテーブルクロスの敷かれた長方形のバカでかい長テーブルに、大きなローストビーフに熱々の野菜のたっぷり入ったシチュー、たくさんの季節の果物が盛られた大皿、その他様々なごちそうが湯気を立てて並んでいた。

「わあ、すごい。ホームレスの人たちって毎日こんなごちそう食べているの」

「ええ、お金がありませんから」

 ホームレスのおじさんが言った。

「いただきま~す」

 長テーブルを囲んだ様々な大きさの様々な形のイスにみんなそれぞれ座ると、みんなで一斉にそう叫んで、みんなパクパクとごちそうを食べ始めた。

「おいし~い」

 幸子が歓喜の声を上げた。

「おいしい」

 夏菜もうねった。

「彼女は王様のコックをしていたんだ」

 ホームレスのおじさんは、ホームレスのお母さんの隣りに立つホームレスの白いコック帽を被った若い女の子を見て言った。

「どうして王様のコックをやめてしまったの」

 幸子が訊いた。

「王様が突然ベジタリアンになってしまったの。だから王様と大喧嘩してやめてやったわ。野菜しか食べないなんて、コックにとって最大の侮辱よ」

「そうだわ。その通り」

 夏菜が力強く同意した。

「さあ、あなたたちもたくさん食べなさい。子どもはたくさん食べるのが義務よ」

 そう言って、ホームレスのお母さんはでっかいローストビーフの塊りを二人の皿にドカッと置いた。

「は~い」

 幸子は嬉しそうにそのローストビーフの塊りに思いっきりがっついた。夏菜もその肉汁を口からはみ出させながら口いっぱいローストビーフを頬張った。

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