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毎日が南の島の夏休み  作者: ロッドユール
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南の島

「着いたぁ」

 二人は早速上陸すると、両手を高々と上げた。

 夏菜たちが島にたどり着いたとたん、カヌーはまたどこかへ流れて行ってしまった。

「あっ、行っちゃったよ」 

 幸子がカヌーを指さし夏菜を見た。

「そういうカヌーなのよ」

「・・・」

 幸子は流れて行くカヌーをぽつんと見つめた。

「南の島だわ」

 夏菜が島を見回す。ヤシの木が生え、足元をヤドカリがのんびり歩いてゆく。

「紛れもなく南の島だわ」

 夏菜は両手を思いっきり左右に広げて深呼吸した。

「う~ん、私の求めていた島だわ」

 夏菜は喜びと興奮に満ちていた。

「ここ無人島?」

 幸子が聞いた。

「そうかもしれないわね」

 夏菜は、返事もそこそこに、いてもたってもいられず、もう歩き出していた。そんな夏菜を、幸子とリトルベアが慌てて追いかける。

 島の周囲には、澄み渡る真っ青な海と溶け合うように、きらきらと光る真珠の粉みたいな真っ白な砂浜が広がっていた。その真上から神々しい光の塊みたいな太陽光が、島の中央を覆っている南国の植物たちを鮮やかに生かしていた。

 そんな、生命力溢れる光の中を、夏菜と幸子、リトルベアは歩いて行った。

「天国みたい」

 幸子が両手を大きく広げ、くくるくると一人回転しながら言った。砂浜はどこまでも白く輝き、空気までが輝いて見えた。

「違う。天国そのものよ」

 夏菜は、まっさらな砂浜の上に大の字に倒れた。それほどにこの島は美しかった。夏菜は真っ白な砂浜に埋まりながら、夏の青空を見つめた。

「・・・」

 雲一つ無い、どこまでも突き抜けるような純粋な青がどこまでも果てしなく広がっていた。

「あっ、あれ煙」

 その時、幸子が島中央を覆う森の中から立ち上る煙を見つけた。

「行ってみましょ」

 夏菜が顔を上げた。


 うっそうと生い茂る森の中を二人と一匹は、わさわさと草や枝を掻き分け歩いて行く。湿度が高く、強烈な植物と土の匂いがした。

「良い匂い」

 その時、幸子がクンクンと鼻を鳴らした。その下でリトルベアも鼻をしきりに動かす。森の中から、森の中らしからぬ、何やら良い匂いが漂って来る。

 森を掻き分けると、そこに小さな木で出来た高床式の小屋が見えた。その前に、大きな鍋が焚火にかかってぐつぐつと、何かが煮えていた。

「わあ、カレーだ」

 幸子が思わず叫んだ。幸子がカレーの良い匂いに堪らず走って行って鍋の中をのぞいた。その足元について行ったリトルベアも興奮してキャンキャン吠える。

「でも、なんでここにカレー?」

 幸子が首を傾げる。辺りを見回すがそこには誰もいなかった。人の気配もない。小屋の中も誰もいなかった。

 後から追い付いた夏菜と、幸子は顔を見合わせた。

「誰か住んでるのかな」

 幸子が言った。

「誰か住んでる感じはあるけど・・」

「誰じゃ」 

 その時、突然、森の中から声がした。夏菜と幸子とリトルベアは、声のした森の方を見た。しかし、そこにはうっそうとした草藪以外何も見えなかった。

「あなたこそ誰?」

 夏菜が、草藪に向かって叫んだ。

「わしはここの住人じゃ」

 すると、背の高い草藪の中から、髪の長い精悍なじいさんが、バサバサと草を掻き分け、出て来た。

 真っ黒に日焼けした顔に二つ丸く飛び出すように白く浮き立つ、ぎょろっとした鋭い眼光が、二人と一匹を捉える。

「ここは無人島じゃなかったのね」

 夏菜が言った。

「そうじゃ、ここにはわしが住んでおる」 

 島には一人のおじいさんが住んでいた。

「お前らはどこから来た」

「あっち」

 幸子が、自分たちが来た方を指差した。

「おじいさんはどこから来たの」

 幸子が訊き返した。

「わしもあっちじゃ」

 おじいさんは挑むように幸子と同じ方を指差した。そして、もう一度、そのぎょろっとした二つの目が、夏菜と幸子とリトルベアを捉えた。

 二人と一匹は、おじいさんの迫力ある野性的な眼力に、思わずゴクッと息をのんだ。

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