大切な人を失うのは誰だって辛い。その辛い気持ちを少しでも和らげるために、私にできることは。
「我々第108小隊が到着したときにはもう…。」
その場はとても重々しい空気だった。そう感じてしまうのは、この場にいる全員が下の方ばかり見てしまっているからなのかもしれない。
「そんな、あの二人が…どうして…。」
目の前の年配の女性は今にも泣き崩れそうな顔で私の話を聞いている。
私も女性と同じ気持ちだったが、まずは軍人としての任務を果たさなくてはならない。
「幸い死体は回収することができましたので、鑑識による調査が終わった後、お返しできることになっております。―このたびはお悔やみ申し上げます。」
私が言い終えると、女性はこう言った。
「ルーナさん。ありがとう。伝えに来てくれたのがあなたでよかったわ。なんて言えばいいかわからないのだけれど、それでもあなたに感謝を。」
まさか感謝の言葉が出るとは思わなかった。泣き崩れるか、怒鳴られるか、どちらかを想定していたのだから。
彼女の言葉を境に、私は軍人としてではなく、孫の嫁の妹として接していた。
「そんな、感謝されるようなことは何も。あの、私も葬式に参列してもいいですか?最後のお別れをしたくて。」
幸い第108小隊に戻るのはまだ先のことなので、葬式に参加できる余裕はあるはずだ。
「えぇ、もちろん構いませんよ。」
女性は、ソフィーおばさまは努めて明るい声で返事をしてくれた。今一番つらいのはおばさまのはずなのに。一人息子とその妻、そして孫の妻を失い、最愛の孫は家族とは全く連絡を取ることなく戦場で戦っている。おじさまは5年前に他界し、今は一人で暮らしている。そんな彼女が、それでも気を強く持てているのは、本当に尊敬できると思った。
「ありがとうございます。」
しばしの雑談が続いた後、私は本来の目的のためにソフィーおばさまに質問をした。
「おばさま。質問があるのですが、最近2人に変わった様子や、誰かと会っているという話を聞いたことはありませんでしたか?」
少し考えた後、こう返してくれた。
「そういう話は聞いたことはないわ。ごめんなさいね、力になれなくて。」
「いえ、大丈夫ですよ。ありがとうございます。」
話が終わり、私はおばさまと別れの挨拶を済ませた。
最初から良い情報が集まるとは思ってはいない。第108小隊に戻るのは10日後だ。それまでに何か結果を出せていればそれでいい。
私は数日かけて、2人の知り合いや家の近所を片っ端から調べていった。
そしてデイビットの行きつけのバーで有力な情報を得ることができた。
「最近変わったこと?そうだなぁ、最近と言えば、今度の日曜の夜に人と会うとか何とか言ってたな。俺が「誰と会うんだい?」って聞いてみたら、それは言えないって言われちまってよ。あの人、酒を飲むと割と口が軽くなる方だったのに、その時は頑なに教えてくれなかったよ。もしかして浮気でもしてんのか?って考えちまったほどだぜ。」
つまりそれほど情報を漏らしてはいけない人物と会っていたことになる。
「店長。その人と会っていた場所ってわかる?」
「場所までは分からないが、こう言ってたぞ。「貧民街なんて久しぶりだな」ってな。」
私は次の日、貧民街へ赴きデイビットさんの写真片手に聞き込みを開始した。ここでの聞き込みは何より金がかかった。奴ら質問するだけで金を要求してくる。貯金には余裕があったが、たいした情報も得られないのに、金だけが無くなっていくのはかなりイライラしたが、良い情報が得られると、そんな気持ちはどこかへ行っていた。
「知ってるぜ。日曜の夜にこの奥にある飲み屋に行くのを見た。しかもそいつが店に入る前に男が一人入っていった。あれはすごいな。服にシワ一つなかった。どこぞのエリートさんだろう。」
いかにもこの街が似合う男が言った。
ますますきな臭くさい。我々が死体を発見した1週間前に、そんな人間と会っていたなんて。
「そのエリートについて知っている情報をすべて教えてほしい。」
「もちろん構わないとも。でも姉さん。分かってますよね。」
男が手で金のジェスチャーをする。この手のやり取りにはうんざりしていたが、背に腹は代えられない。私は男の手に金を握らせ話の続きを促した。
「毎度。そうだな、そのエリートさんは、かなり鍛えられているようだった。服を着ている上からでもそれがわかったからな。それに歩き方で気づいたんだがな、あれは軍人の歩き方だな。間違いないだろう。」
やはりか。
その言葉を聞いてそう思っていた。隊長のいる第108小隊が隊長の両親の死体の回収任務を任されるなんて不自然だ。私は軍に何か関係があるのではないかと考えていた。
男から話を聞き終えた後も、聞き込みを続けたが、それ以上の収穫は得られなかったため、私は実家へ戻り今日の出来事を整理することにした。
「私たちが発見する1週間前、デイビットさんは軍の関係者と会っていた。それもかなり上の人間と。そこで何かしらの出来事があり、デイビットさんは死亡し、さらにアンナさんも死亡した。どうして軍人と会った後に死亡しなければならなかったんだ?いったいその間に何があったんだろう。調査を続けなければ。」
そうして数日間調査を続けていたが、それ以上の成果を上げることができないまま、2人の葬式の日がやってきた。
「彼らの魂が平穏の元、天に召されますように。」
葬式には2人の親や従妹、関わりが深かった者、そして私の両親も参列した。葬式は滞りなく勧められ、2人が入った棺桶が土に埋められるのを見たとき、
やっぱり私は真実が知りたい。首都に戻ってくる前はあの人の為だったが、今は2人の為にも、おばさまの為にも、真実を解明し伝えたい。
それが今の私にできることだ。
と考えるようになっていた。
「3日前、軍人の女が貧民街を訪れ、俺に質問してきました。あの日のことを。」
貧民街がよく似合う男が言った。
「そうか、その女には、なんと伝えたんだ?」
もう一人の男が言う。こちらはシワ一つないスーツを着こなし、エリートという言葉が似合う格好をしていた。そしてかなり鍛えている体だった。
「それは…デイビット?だったか、その男が飲み屋に入っている所を見たっていうことだけです。」
貧民街の男は答える。
「なるほど、つまり私のことは答えていないというのだな?」
「は、はい。その通りです。それだけしかあの女には伝えてはいません。」
軍人の男は、少し考える仕草をした後、言った。
「協力ありがとう、下がっていいぞ。」
「はい。それで、報酬のことなんですが。」
貧民街の男がそういうと。
「あぁ、そうだったな。帰りに現金で払う。それで問題はないだろう?」
「えぇ!もちろんですとも!それでは、失礼させてもらいますね。へへっ。」
貧民街の男は上機嫌で部屋から去っていった。そして男が去ったあと。
「奴を処分しておけ。方法は任せる。」
軍人の男はそう言った。
「貧民街の屑が。お前のような人間の嘘に気付かないとでも思ったか。」
二人が話していた部屋には、その場にいる人間の心拍数を図る装置が備えられており、嘘を見破るなど造作もないことだった。
「それにしても嗅ぎまわっている奴がいるとはな。貧民街の連中は金さえ積めば情報を垂れ流す奴らだ、真実にたどり着くのも時間の問題かもしれない。早急に手を打つ必要があるな。」
そして一枚の軍歴証明書を見、こう呟いた。
「ルーナ・ブラウン、か。」




