雪という日
雪が降る日、それは僕達がすれ違ったきっかけになった日。
そして、別れた日。
何年経っても忘れない。
忘れられない。
高層タワーのまえ、仕事場の近くの道を歩く。
社会人になってから2年、ようやくこの道にも慣れてきた。
その慣れてきた道を歩き思い出す。
高校3年生の冬、彼女に別れを告げられたことを。
理由は、今ならわかる。
僕が君のことを理解出来ていなかったから。
君がいつもいっつも我慢してくれてるときの仕草や
嬉しい時の仕草。
それをわかっていたのに、理解出来なかった。
ーーーーーーー雪か…。
空を見上げると雪が降っていた。
下を見るとアルファルトの上に雪が乗りシミになっていた。
ーーーーーーー君も、同じ空を見ていて同じように凍えてるのかな。
乙女チックなことを考えてみる。
柄にもないことをたまに考えるのも悪くないなと思った。
ただ雪が強くなり仕事帰り、一人で雪に打たれながら帰っているとふと気付く。
涙が零れていることを。
ーーーーーーー割り切ったと思ってたんだけどなぁ。
少し自分に呆れてみる。
やっぱり、思い出してしまう。
雪が似合う、彼女を。
高3の冬、大学の一般入試を控えた俺。
AO入試を終えた彼女。
付き合って約2年。
お互いのいいところも悪いところをよくわかっていた仲だと俺は信じていた。
同じ高校で同級生の俺ら。
一緒に帰るのが毎日のあたりまえだった。
だが、この時期の俺はピリピリしていて帰ってからも勉強に追われていた。
タダでさえ、学力が足りていないのだ。
どうしてもその学部、その大学に行きたい俺は寝る間も惜しんで勉強していた。
ある時、いつもはたわいもない話をして帰っていた彼女が真剣な顔をして俺に言った。
「そんなに、勉強勉強勉強してても頭に入ってこないよ?
たまには、ゆっくりして見るのもありだと思うよ?」
と。
彼女はただ俺のことを心配して言ってくれた。
なのに、俺はその彼女の言葉をどうしても許せなかったし
その言葉で何かが切れたんだ。
冷たい声で俺は彼女の顔を見ずにこう言った。
「いいよなっっ!!AO入試で馬鹿大学に決まってるお前は。
人のこと見下して、上から目線で!!!!
やっぱ、合格決まったヤツの言うことはちげえな!!!」
まだまだ言い足りない俺はもっとひどいことを言った。
「おまえとなんて付き合わなければよかった!!!!」
一通り言いたいことを終えた俺は自分行った過ちに気がついた。
だが、すでに時は遅かった。
彼女は、泣いていた。
泣きながらこう言った。
「私のせいでご、ごめんね…。
もう二度と関わらないから…、じゅ、受験頑張ってね?
………さようならっ」
と言って走って去ってしまった。
俺は追うことが出来なかった。
ただ、彼女の後ろ姿をみて見送ることしか出来なかった。
今ならわかる。
俺のことを思って言ってくれたことを。
倒れそうな顔をしてたんだと思う。
よくよく考えると一日に、二時間ほどしか寝ていなかった。
次の日、謝ろうと思っても彼女は学校に来なかった。
彼女は、一週間休み俺も謝りづらくなった。
色んなことを言い訳にして彼女から逃げた。
言いたいことすら言えずに。
そこからは、もう思い出すことすらない。
結論から言うと彼女とは自然消滅した。
今ならわかる。
ーーーーーーー素直になれない俺はただ虚しいだけだった。
あの時学決意した。
ーーーーーーー次は、心に耳を傾けてずっとずーっと心の奥深くまで行き巡り会うと。
変なことを思い出してしまったと思う。
気がつくと家よりも遠い変な駅に着いてしまった。
「どこだここ…。」
そう思い携帯の位置情報を見てみると知らない駅にいた。
「あー、やらかした。」
独り言をいい、携帯に従い家に帰るホームへ向かう。
「げっ、次で終電だ。」
走ってホームまで向かう。
「あとは、この階段を下るだけ」
そう自分にいい聞かせ、いまだかつてないスピードで電車の元へ走った。
「たたたたたたたたっ、たっ、たっ…」
急に足が止まった。
その理由はそう目の前に彼女がいるから。
彼女は気付いてない。
心の中のどこかでは、気付かないでくれと思った。
だが、心の中のどこかでは気付いてくれとも思った。
彼女はふと上を向き、俺と目が合った。
だがすぐさま知らないふりいや、気付いてないのだろう。
俺の横を通り過ぎていった。
声をかけようとすると
「〇番線列車、まもなく発車いたします」
という声が聞こえまた走って電車へ乗り込んだ。
息を切らし、彼女の通り過ぎたあとを見送る。
また虚しい気持ちだけが胸に残った。
布団の中に入り、深い眠りについたはずの俺は彼女の目の前に立っていた。
先ほど会った彼女が目の前にいた。
俺と彼女は目を合わせる。
そして、彼女は言った。
「あの時は、あなたの事を考えて上げられなくてごめんなさい。」
「いや、俺の方こそごめん。」
長い沈黙が流れる。
今なら、あの時言えなかった言葉が言えると思った。
言葉にならない単語、それらを繋ぎ合わせあの時言いたかったことを紡ぎ出す。
「分かり合いたいって、分かり合えてるって思ってるだけだったんだ俺は。
上辺を撫でて、自己満足していたのは俺だったんだ。
1度も男らしいこと出来なくて、手しか繋げなくてっ!
君が誰よりも俺のことを考えいてくれてたのにわかってあげられなくて本当にごめん。
手を握りしめることだけで繋がっていたのに、わかっていたはずなのに!!!
わかってあげられなかった…」
涙が溢れて頬を伝う。
「本当にごめんっ!!!!」
頭を下げる。
我慢していた涙が溢れて零れる。
「いいんだよ?」
優しく俺に微笑んで彼女は光になって消えた。
その場には彼女の温もりが残った。
目が覚めると、泣いていた。
なんの夢を見ていたのかは覚えていない。
けど、何かが吹っ切れたと思う。
カーテンを開けると雪が積もっていた。
携帯を見ると、都内5センチの積雪と書いてあった。
今日だけは、今日だけはっ!
雪を頼って良いかなと思った。
この生暖かい涙は久しぶりにみた美しい雪の景色で出たということにしておく。
僕の孤独なこの気持ちを空へ返してくれたのはきっと雪。
そう思うことにした。
お読み頂きありがとうございます。
雪をみると切ない気持ちになります。
それは、私だけでしょうか。
短編なのですぐに読み終わると思います。
楽しんで読んでいただけると幸いです。