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夜野レンのあだ名

「夜野レンに告白されただと!?」

「ひゃー! 乙女ゲー展開がついに現実でも!? 乙女ゲーGO!?」

「しーっ! 葵君、ノリちゃん、声!」

「ああ、わりぃ」

「ごめんなさい、興奮してしまって」


夜野君は部活を抜けてきていたらしく、颯爽と走り去っていった。

私は私で二人が待っていてくれたので合流し、そのまま喫茶店に行って事の顛末を話している。二人とも一瞬ぽかんとした顔を浮かべたかと思ったらそのまま口をさらに大きく開けて驚いた顔をした。いいね、すごく声通りそうなくらい口開いてるよ!


「夜野君と言えば……」


そう言いながらノリちゃんが小さなメモ帳を取り出した。表紙には「イケBL」と書いている。何の略かはあえて聞かないでおこう。


「一年D組。出席番号32番。うちの学校のイケメン新四天王の頂点……」


四天王ってことはあと三人いるのね。三次元にあまり関心持ってないからそんなものが校内にあるなんて全然知らなかった。しかし一年生にして頂点に立つなんて夜野君、すごいな……。


「剣道部部所属ですね」

「ふーん、剣道部なんだ」


どうりで腕ががっちりしてるわけだ。って違う違う。何を思い出してるの、私。


「で、なんて返事したんだ?」

「え、友達から……」

「勿体ない! 付き合えば良かったのにー」


うん、明らかに楽しんでるよね二人とも。ニヤニヤが隠しきれてませんよ?

でも反対されるよりはずっといい。いや、反対する理由もないと思うけど。


「夜野ねぇ……」

「どうしたの葵君」

「や、あいつそういや中学同じだったんだよ」

「まぁそれは初耳でしたわ。中学時代の彼ってどんな人だったの?」

「良い奴だったよ。ただなー……」


言っていいものかどうか葵君は悩んでいる様だった。それでもノリちゃんが気になりますと氷菓のヒロインさながらに迫ると、観念したように口を開いた。


「あいつな、ほんと顔と身体だけなんだよ」

「へ?」


良い奴なんだけどと何度も言いながら、葵君はさらに続ける。


「別に特別頭がいいとか、運動神経がいいとかじゃないんだ。顔と身体以外はいたって普通なんだよ」

「普通」

「そ。アニメとか小説だとイケメンって大概何でもできる優秀だろ?」

「確かに、レオン様は完ぺきだもの」

「でも、夜野はそうじゃない。夜野は――良くも悪くも普通なんだ」


普通? いやいやイケメン四天王の頂点な時点で普通じゃないと思うよ!

それでも、葵君の言いたいことはなんとなくわかってしまう気がする。

人を見た目で判断するわけじゃない。でも人は見た目が九割とはよく言ったもので、見た目がいいときっとすごい人なんだと勝手な先入観が生まれるのだ。

夜野君もきっとそうなんだろう。カッコいいから、見た目がいいからその分色んな期待を持たれてしまうんだ。


「だから夜野のこと好きな奴は『顔ファン』って揶揄されてたし、夜野自身は『残念王子』って言われてたよ。本人は気にしちゃいないけど」


 残念王子って……モジョ子並にひどくない?


「そっか……」

「ごめんな、桃子。でも良い奴だからほんと。それは保障する」

「うん。大丈夫。確かに良い人オーラは半端なかったよ」

「そうね。それに見た目や趣味嗜好で判断するのは良くないですよね」


ノリちゃんの言葉に、私と葵君は大きく頷いた。私たち三人はそれが痛いほど身に染みている。

残念王子なんてニックネームが霞むほど、素敵なニックネームを考えようと私はそっと心に誓った。

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