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モジョ子、嫌われヒロインを体験する

「ねえ、あんた夜野君とどういう関係なの?」

「え?」


昼食前に手を洗おうと化粧室に行ってみんなのもとへ戻ろうとした時だった。

その子は突然、私の進行方向を遮るように立ちはだかっていた。


「ん?」

「ピーコちゃんだっけ? 随分変なあだ名で呼ばれてたけど」

「変なって……まぁ、否定はできない……けど……」


知らない人に話しかけられても応えないようにしましょうというのは小学校で習う事だけど、どうやらそれは通用しないようだった。

ミディアムボムのスレンダーなその子は、先ほどレンっちを呼んでいた女の子だった。


「あと中島君とも仲良いよね? 何で?」

「何でって言われても……」

「あーもうっ! イライラする!」


急にイライラすると言われて私はますます戸惑ってしまう。

いきなり話しかけられてちゃんと答えられるほど私はコミュ力が高いわけじゃない。

しかも質問の内容がこんな、答えにくい事ならなおさら。

イライラを隠さずサラサラの髪を指でいじりながら、その子は私から目を逸らさずにいた。


「あのさ、あんたその恰好本気で似合ってると思うの?」

「え?」

「地味なあんたが、そんな格好してさ。服がかわいそう。アクセがかわいそう」

「なっ」


この時、中島君が選んでくれた服そのものはけなされなかったことに安心してしまうあたりが私の悲しい性である。

でも、やっぱり面と向かって地味と言われて落ち込まないほど鋼の心は持ち合わせていなかった。何度もこういう場面には出くわしているけれど、未だに慣れない。


「それとかさ、あんたほんと似合ってないから」

「ちょっ、何っ」


腕を掴まれたかと思うと、一気にブレスレットを引き抜かれてしまった。

中島君が選んでくれたやつだ。取り返さなきゃと腕を伸ばすも、ひょいと上に持ち上げられてしまい、背の低い私には届かない。


「これはあたしがもらってあげるから。じゃあね」

「ちょっと! 返してください!」

「ちょ、声大きいんだけど!」

「返してください!」


自分でもびっくりするほど大きな声を出していた。やがて騒ぎを聞きつけた他のお客さんが集まりだす。何事かと興味津々のようだった。


「あ、あのひっ」

「なんかこの子が私のブレスレットを自分のだって言うんですう」

「えっ……」


先ほどまでの意地悪な顔を隠して、その子は下を向きしくしくと泣き出した。

突然の変化に私も黙り込んでしまい、手を下ろす。


「お前、盗っただろうって……ひどい。ひどいよ」

「ちがっ……ちがう……」


首を振り、否定するもギャラリーの様子は明らかにその子寄りだった。

これじゃまるで……


「も、もういいです!」

「あ、逃げたぞ!」

「ひどいわねー」

「かわいい子に嫉妬してるんでしょ」


最後まで、人前で泣かずに入れた自分を褒めてあげたい。有森さん褒めて!

なんて冗談を頭の中で考えながら涙をこらえる。

結局ブレスレットは取り返せなかった。空気に耐え切れずに逃げ出してしまったから、完全に私が悪者だ。どうしてこんなことに。


「いてっ」

「あ、ごめんなさい!」


下を向いて走っていたせいか、誰かにぶつかってしまった。慌てて頭を下げたものの、涙を見られなくてまた走り出す。

ああ、走るの早くてよかった。なんて今は思う。


「おそかったねー」

「ちょっとトイレ混んでたみたい」


必死に涙を拭きとって、何事もなかったようにみんなのところに戻った。

良かった、ばれてない。


「あれ? 朝倉さん、ブレスレットは?」


が、やっぱり中島君は何もつけてない腕に素早く反応する。


「ごめん、はしゃいでてどこかに落としちゃって」


せっかく選んでくれたブレスレットを落とすなんて最低な人間だと思われてるんだろうな。

下を向いたままの私を見て中島君は何を思ったかすぐに話を切り替えてくれた。


「さーて、レストランでも入るかぁ」


せめてあのブレスレットを、あの子が大事にしてくれることを願うだけ。


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