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勘違いはここから始まる⑤

『では、行こうかのう。第5層とは言え、迷宮に絶対安全はないからのぉ。みな、気を引き締めてゆくぞ』


流石、年長者であるアーデルは迷宮の怖さを知っている。浅い階層が必ずしも安全とは限らない。この迷宮は、深々層という大変深い構造まであり、稀に浅層にも中層のモンスターが姿を現す。アーデルの言葉は、長年の経験に裏打ちされた確かに信頼をおけるものである。


『『『はいっ!』』』


ティアリス、リックもアーデルを信頼しているからであろう、しっかりと返事をする。そんな中でセティは


ーまぁ、せいぜいエスコート宜しくな、おっさん。


全く敬意を払っていない。本人は現在の所、運のみで生き残っていることを認識していない。だから、たちが悪い。


セティがアーデル達に続いて歩き始めた時、


『あれっ!?セティ。グリーンゴブリンの棍棒は持って帰らないのかい?浅層とはいっても、迷宮のモンスターが持つ武器だからね。それなりの値がつくぞ』


リックが、グリーンゴブリンの棍棒の存在を忘れている、セティに問いかける。


ーマジか!?只の木の棒だぞ。棍棒っていったって簡単にとれるじゃないか。まあ、創造主の俺様は金の心配なんてしてないが、勿体無いし持って帰るか。


物に執着しない男格好良い!とか言っていた頃、ついさっきであるが懐かしい。


『勿論持って帰りますよ。モンスターとは言え、私が成長するための血肉となってくれたことには変わりありません。一つの命を奪ったという責任もありますし、モンスターと言えどそこは、人としてきっちりしておきたいですから。』


アーデル達は息をのむ。やはりこのセティという少年は只者ではないと。まだ小さいながらも、自覚と責任のある考えを持っている。育った環境なのか、本人の資質によるものなのか。推し量ることは出来ないものの、間違いなく同年代からすれば突出した子どもであることには変わりないだろう、そう思わざるを得ない。


検討違いのアーデルらである。勿論セティは一欠片もそんなことは思ってない。受けが良さそうだから言ったのであり、彼の発する言葉に重みはない。


『全く、驚かされてばかりじゃわい!』


言いながら、セティの頭をゴシゴシと撫でるアーデル。その顔は本当に嬉しそうである。


ーきっもっ〜!おっさんに頭をなでられて何が面白いんだよっ!

…まさかっ!このふさふさの髪の毛に嫉妬してるのか。


セティが被害妄想に駆られている中、それを微笑ましそうに見つめるティアリス。父親が嬉しそうにしているのが彼女にとっても喜びである。





一向は街を目指して迷宮を進む。アーデル達は、やはり実力者なのであろう、襲ってくるモンスター達を次々と蹴散らしていく。アーデルはその怪力を活かした、斧による圧倒的な破壊力。彼が斧を降るたびに轟音とともにモンスターの体が分断される。グリーンゴブリンもコボルトも関係ない。彼がその武器を振るうことで異形の怪物達に等しく死が訪れる。アーデルの戦闘は単純明快、力の極致である。しかし、それ故に見る者を唸らせる程の戦いである。この場のただ一人を除いてではあるが。


ーははっ!まさにハゲ筋肉ダルマだな。いくら強くても、あれはダサい。しかし、創造主の俺より目立つとは許されん愚行だな。…まあ、ハゲに免じて許してやるか。心も広いとは素晴らしい男だぜ!


アーデルの見事な戦いも、この男からすればダサい戦いとなる。本人には出来るはずもないことであるが、夢と信じて疑わない創造主(笑)にとっては大したことがないと思っている。


ーハゲは置いといて…このガキはいる意味あんのか?


少し前を歩く、少女に目を向けるセティ。上から下までジロジロと見る男。現実世界では確実に犯罪者である。


ー魔法使いみたいに大層な格好してる割には、やってることはモンスターの宝石拾ってるだけじゃねーか。いるよな〜!こういう他人の努力の経過をすっ飛ばして、結果と成果だけ横取りするやつが。後、お前にその服は似合わねぇよ!


さんざんな言われようである。それもそのはず。セティにとって、魔法使いが身に付けるようなローブや杖は憧れなのである。オリジナルの魔法や詠唱を、物心ついたころから現在に至るまで考えてきたあたり、彼にとって魔法への思い入れは誰よりも強い。勿論、魔法使いになりきる為に、コスプレも厭わない。魔法を使う夢を見るために寝間着をローブにする位である。そんな憧れを、目の前の少女が体現している。しかも、何も為さずにだ。そんなことをセティは許せるはずがない。

もっとも、そんな哀れな事情か散々に貶されているティアリスは、本当に気の毒でならない。


『凄い(熱心な石ころ集めが)ですね。僕には到底真似出来ませんよ。』


珍しく我慢出来なくなったのか、前衛で戦うアーデルとリックを横目に、セティは口撃を開始する。


『えっ!?(お父さんが褒められて)嬉しいなぁ。ありがとう!でも、リックさんも凄いんだよ!』


ーふははっ!この女自分の惨めさを認めおったぞ!しかも、さりげなく優男を出すあたりあざといな。もっと凄いとか、倒したモンスターの石をダイレクトキャッチするとかか?それは確かに凄いわ(笑)!


セティの口撃は不発に終わるも、本人からすれば大成功である。


ーその殊勝な心に免じて許してやるかな。


勝手な勘違いで一人盛り上がるセティを尻目に、リックが素早く二匹のグリーンゴブリンに駆け寄る。圧倒的な速さの前に、一匹のゴブリンは為す術もなく、リック自慢の双剣の餌食となる。そして、狼狽えていたもう一匹のゴブリンも、見事な早業にてその命を散らす。アーデルが力なら、リックは速さである。



ーあの野郎っ!金髪で顔が良い上に、戦い方も格好良いだと!許さん!


結局、アーデル、ティアリス、リック三人とも、勝手にセティに罵られるという悲しい結末に。


ーくそっ !俺だって、このイヌ野郎から奪った剣があればあれ位余裕なんだよ!

見てろっ!こうっ…あっ!!

しまった!!

やばいっ!!


セティは気付いていないが、自分の本来の姿とは大きく変わっている。現実では30歳であった佐藤タロウは、ここでは、凡そ10歳位のセティ・フォン・シュバルツダンケルハイト(笑)である。子どもと大人の握力は違う。いつもの一人チャンバラのように振るった剣は、その手を離れ、回転しながら、勢いよくリックめがけて飛んでいく。


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