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勘違いはここから始まる③

タロウとアーデル達三人の心情は180度違ってはいるが、場は和やかなムードである。


ー夢に逆らうと、大抵目が覚めてしまうからな。深く考えずに、こいつらの設定に沿った形で行くか。とりあえず、好印象を与えないとな。色々と情報も聞きたいしな。装備を見るに結構強そうな感じだし。まあ、この世界の創造主たる俺には及ばないだろうけどな!


考えていることは最低であるが、タロウの人当たりの良さは見抜けない。


ーとりあえず名乗っとくか。


『申し訳ございません。あなた方は名乗られたのに。私の名前は、セティ・フォン・シュバルツダンケルハイトと申します。以後お見知り置きください。』


誰だそれは。お前は佐藤タロウだろうが。初っ端かな真っ赤な嘘をつくタロウは流石である。しかも、架空の名前がこうもスラスラ出てくるあたり、タロウの痛さ加減が伺える。

タロウがこの名前を使うのは、格好良いから。至極単純な理由である。

シュバルツはドイツ語で黒。ダンケルハイトは闇。大学の時、第二外国語でドイツ語を選択した理由も、無駄に格好良い言葉が多いことをゲームの知識で知っていたからである。黒だったり、闇だったりらタロウのツボにはまっていたのである。セティという名前は、昔はまったゲームの主人公からとっている。

さりげなく、貴族の呼称を入れているあたり、入念な準備である。ちなみに本人は、貴族などの知識は全くない。


『おおっ!貴族のお方でしたか。存知上げていなかったとは言え、無礼な態度大変失礼致しました。』


慌ててアーデルが謝罪する。


『も、申し訳ごさいませんでした。』


ティアリスとリックも続けて謝罪する。それもその筈、この世界では、絶対的な身分制度になっており、王族を頂点として、王族直轄の貴族、上級貴族、中級貴族、下級貴族、貴族直轄市民、市民、市民権のない奴隷と続く。

王族直轄貴族とは、王族の人間と婚姻関係を結ぶことの出来る選ばれし貴族をさす。上級から下級貴族はそれぞれ爵位によって区分けされる。貴族直轄市民とは、貴族の庇護を特に受けられる市民であり、成り上がりの大商人や冒険者に多い。王族、王族直轄貴族、その他貴族、貴族直轄市民、市民、奴隷には明確な壁があり、それを乗り越えるには努力以外の運や生まれもった才覚が必要となってくる。大成した冒険者が、貴族の庇護を受け、王族より爵位を賜ることもあるが、稀である。


アーデル達はごく普通の市民であり、貴族が悪とすればすぐに首が飛ぶ存在である。つまり、先程のタロウに対する無礼が、自分達の命を脅かしかねないのである。その為、急いで謝罪を行った。


しかし、そんなこの世界の事情も、貴族のことも知らず、ただ格好良いという理由で名前を名乗ったタロウは…


ーひゃっほ〜!!気持ちいい〜。


喜んでいた。単純なタロウにとって、相手より優位に立つ、それはこの上ない幸せであった。つまり、ただ性格が悪い奴なのである。

更にこれを好機と言わんばかりに、


『やめてください。他の方はどう思うか知りませんが、私は冒険者である以上皆さんと同じです。そこに上も下もありません。むしろ、貴族たるもの常に節度ある行動が求められ、その所在には責任が発生します。私にとって貴族であるということは、人を導く指針であることです。』


口からでまかせのオンパレードである。思ってもないことを言い、いかにして、自分スゲーと思わせるか。タロウにとって重要なポイントである。


優越感に浸りながら語るタロウ。先程まで、和やかな場面が、厳かでいて、何処か温かな空気となった。


アーデル達三人は思わず息を飲んだ。


ー貴族の理不尽さと、自分達の置かれた抗えない場所。そんな場面を幾つも見てきた。中には、貴族の模範たる人もいたが、ごく僅かである。大抵は、自分に都合が悪いことは権力という絶対的な暴力により物事を解決する。それで何度も辛酸を舐めた同業者もいる。中には無茶な要求により、命を落とす者もいた。今でこそ、冒険者を守る、冒険者ギルドと王族との間の不可侵令により冒険者が理不尽に搾取されることはないが、中には、ギルドへの圧力をかけて搾取をする貴族も存在する。

そんな状況の中で、子どもと言っても過言でない少年が、貴族の何たるかを語るのである。しかも、その姿は一人の人として尊敬し、畏敬の念を払う程、立派なものである。

実力もさることながら、人間性も申し分ない。


ーだからこそ、冒険者は面白い!アーデルは久し振りに心の底から震えた。


『ところで、セティ様は、このあたりでは見かけない、黒髪ですね?どちらのご出身なのですか?』


ティアリスは恐る恐る質問した。やはり、貴族を前にしているからであろう、緊張が見受けられる。


ー出身だと…!?しまった、その疑問は想定していなかった。岐阜県…なんて通じる訳ないよな。日本にするか、しかし貴族っぽくない。ハポンにしようか…?言い方の問題で、根本的な解決にはなっていない。困った…この場を凌ぐことのできる最適解を…ッ!!

と、また要らぬことを思いついたのか。


『この地より遥か東…小国ですよ。閉鎖的な国ですからね…』


子役も真っ青の、儚げで郷愁を呼び起こす声。この声を聞けば、誰しもが辛い過去があった、そう思わせる程の演技。無駄な所だけ、クオリティが、高いのもタロウならではである。


『遥か東の小国…ッ!!!本当にごめんなさい。セティ様に辛い過去を』


ーはまった!内心ほくそ笑むタロウ。このフレーズも鉄板だろ。しかも、勝手に勘違いしてくれてるし。辛い過去を持ち、健気に生きる男!嗚呼、なんて痺れるんだ。


自己陶酔も甚だしい。しかし、初対面の人間にこれだけの嘘八百を言えるあたり、もはや

一種の才能であろう。


『ふふっ、大丈夫ですよ。そんなに気にされないでくださいね。こちらこそ、気を遣わせてすみません。あっ!それからティアリスさん。様はいりませんよ。変わりに私も、ティアって呼ばせてくださいね』


何という外面の良さ。まさに、脱帽である。


『は、はい!ありがとうござい…ううん…ありがとう、セティ!これから宜しくね!』


ーセティさんだろうが!このガキ…!年長者に向かって呼び捨てとはいい度胸だ!どんな教育をしてんだよ!親の顔が、見てみたいわ!


すぐ隣にいるが。心の中で散々悪態をつくタロウ。


『こちらこそ、よろしくのうセティ』


『よろしくな、セティ!』


ーハゲ親父はまだしも、リックてめぇも明らかに年下だろうが!さん付けしろよ!背が高くて、イケメンだからって何見下してんだよ!


ーティアリスに続き、暴言を吐くタロウ。何を言われても、悪態をつくその姿まさに、シュバルツダンケルハイト(黒い闇の貴族)である。


未だ、自分の容姿や背丈が変わっていることにすら気付いていないタロウと、アーデル達三人のすれ違いは加速する。



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