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勘違いはここから始まる…

『転移石が使えないとやはり不便ですね。』


リックがアーデルに話しかける。その表情はどこか、気怠げな印象をうける。


転移石とは、迷宮限定で使用できる移動用の二石一対の魔法道具である。自分が踏破した階層であれば、一瞬にして異動出来る便利な道具である。もっとも、万能という訳ではない。使い捨てであり、迷宮の中で、自分の行きたい階で魔力を転移石に込める必要がある。その上で転移石を、その階層になくならないようにおいておく必要がある。迷宮には、モンスターが常に一定数徘徊しているため、踏んで壊されたりする可能性もある。また、同じ冒険者の中でも、自分以外の転移石を見つけたら壊してまわる輩も少なからずいる。自分の食い扶持を少しでも確保したい、低級の冒険者にそういう者は多い。


アーデル達三人は、迷宮の中層から第6階層へ転移を行い、そこからは帰還をしている最中であった。


『仕方ないですよ!転移石は第6層以降じゃないと置けないし。それに、石ありきで迷宮探査をすることの、防止にもなるから私は良いと思いますよ!』


ティアリスが無邪気に答える。その表情は、心から探索を楽しんでいるようである。


『そうじゃのう!いつでも初心忘れるべからずじゃ。何100回と通ったこの道も、以外に新しい発見があったりするんじゃよ。』


アーデルも楽しそうに答える。親子揃って迷宮探査が本当に好きなようだ。それを聞いたリックは、ーそんなものですかね…とだけ言う。


『しかし、時間ももう遅いしのう。日が長くなったとはいえ夜になりきる前に街に戻らんとのう!大丈夫か、ティア?』


厳つい外見から想像出来ないくらい、優しい表情で娘を心配するアーデル。一目で親バカと分かる程のものである。


『大丈夫だよ!まだまだ元気だから!心配し過ぎは良くないよ!でも、お腹が空いてきたから早く戻るのは賛成だよ!』


明るく応えるティアリス。中層まで探査をして尚、余裕があるパーティらしく話しはしつつも、周りの警戒は怠らない。そして、第5層も半ばにさしかかったとき、前方に奇妙な光景があった。


『グリーンゴブリン…。気絶してるみたい。』


奇妙とは、グリーンゴブリンがいることではない。通常、起きているモンスターが眠っている。いや、明らかに気絶しているからである。ちなみにタロウの最初の犠牲となった哀れなゴブリンである。


『ほぉ!本当じゃのう…!それに、グリーンゴブリンの棍棒がないわい。おそらく、あやつを気絶させて武器だけ奪ったんじゃのう。止めを刺さんかったのは、よう分からんがのう!』


そう言いながらアーデルは、手持ちの斧で止めを刺す。


『それにしても、あのグリーンゴブリンから棍棒だけを奪うとは随分な手練れの冒険者ですね。』


リックは感心そうに言う。実はモンスターの持ち物を奪うこと自体は珍しくない。一定の実力者が低ランクのモンスターの道具や素材を奪うことはある。しかし、モンスターの武器や防具といったものは少し扱いが異なってくる。というのも、モンスターは絶命するとその身に付けていた物全てが消滅するからである。つまり、殺してから奪うということは出来ない。かといって、モンスターから無理矢理に奪いさるということも出来ない。何故なら、無理に奪った武具にはその使用者の怨念が宿っており、簡単に言えばそれらを装備すると呪われてしまったり、武具としての性能をまるで発揮しないのである。武具を性能通り使用するには、モンスターの意識を奪い武具を支配下から切り離すこと。もしくは、怯ませて武具を手放させることが必要である。


『うまく怯ませて武器を手放させたか、絶妙な力加減で気絶させた…か。でも、それって』


ティアリスが疑問を投げかける。


『はい。グリーンゴブリンは、スピードこそないものの、その生命力と耐久力でコボルトと並んで低層の冒険者の壁です。しかも、1層や2層にいるゴブリンと違い頭も良い。倒すこと自体は5層まで潜れる冒険者であれば出来るでしょうが、こと武器を奪うとなると確実に中層レベルの実力者ですよ。耐久力もあって、ちょっとやそっとじゃ気絶はしないでしょうし、倒すところと意識を奪うところの境が難しい。さっきのグリーンゴブリンを見る限り、頭部にダメージが見受けられました。頭部への一撃で気絶させたんでしょう。恐ろしく、絶妙な力加減ですね。』


実際は、タロウが夢と分かった瞬間に大声量で叫び、それに驚いたゴブリンが武器を手放しただけである。タロウの放った横っ腹への攻撃のダメージは全くなかったが、勢いよく飛ばされ運悪く壁に頭をぶつけた…これが真相である。しかし、そんなことは露知らず、


『儂もリックと同じ意見じゃのう。やはり迷宮では新しい発見がたくさんあるわい。これで、コボルトの剣なども奪っているようなら大層な輩じゃわい。』


新しい発見して、嬉しそうに言うアーデル。


『ふふっ。コボルトはグリーンゴブリンの耐久力に加え、素早いし、警戒心も高いから難しいと思うよ!』


ティアリスも父親の楽しそうな表情を見て…嬉しそうに応える。


『ですね…。グリーンゴブリンの感じからまだ、そんなに時間が経過してないようです。どんな同業者かも分かりませんから、気配遮断のスキルを使用して進みましょう。』


リックが、気を引き締めて言う。


『そうじゃのう』


『はい!』


アーデル、ティアリスもリックに続く。


暫く通路を行くと、複数の気配がする。

どうやら、子どもとコボルトが互いに睨みあっているようだ。そして、子どもの足元にはグリーンゴブリンの棍棒が転がっている。それも一つでなく、三つである。


ーあんな子どもがグリーンゴブリンの棍棒を?背丈を見る限り、ティアリスよりも二つか三つ年下であろうか。子どもが無手のままコボルトと睨みあっていること、しかも何の防具もつけずいることなど驚きがの連続であった。

ー暫く様子見じゃ…アーデルの無言の指示のもと、二人は固唾を飲んでその場に留まった。


ほんの数秒だろうか、痺れをきらしたコボルトが駆ける。対して子どもは、微動だにしない。アーデル達は、子どもの後方にいたため、その表情を見ることは出来ない。幾ら何でも無防備すぎる!


『あぶな…ッ!!』


ティアリスが助けるために、飛び出そうとした時、


ーゴンッ!


鈍い音がした。どうやら、コボルトはグリーンゴブリンの棍棒に躓き転んで頭を打ち付けたようである。


『えっ!?』

『なっ!』

『ほう!』


驚く三人を尻目に子どもは何事もなかったようにコボルトの剣を拾い、コボルトの首筋へと何度も何度も剣を突き立てていた。


その光景を見てティアリスは言いようない寒気を覚えた。

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