憧れの…②
『それにしても、こう暗いと気分が上がらないな。しかも、一匹目のゴブリン石も確認してなかったし。木の棒は嵩張るし。』
さっきまでの、ノリノリのテンションから一転、愚痴りまくるタロウ。
『やっぱりこの棒は邪魔だな。またゴブリンから奪えばいいし。うーん!物に執着しない男ってナチュラルで格好いいな』
そう言ってタロウは、木の棒をその場に置く。さっきまで、ゴブリンの遺した石でかなり喜んでいたこと、一匹目のゴブリン石を取り忘れたことで愚痴っていたことを既に忘れているようなのは流石である。
『モンスターも倒した、魔法も使った、あとは、華麗なる剣技を披露しないとな!剣神のタロウの美技魅せてやるぜ。』
勿論、一般人のタロウは剣神でもなければ、ましてや真剣すら持ったことがない。学校の授業で、剣道をかじった程度である。あとは、雨上がりの日に傘を剣に見立てた、妄想チャンバラのみ。妄想なのは、チャンバラする友達がいなかったからであるが、本人は気にしてない。
『剣が欲しいな〜。剣が。どっかに落ちてないかな。』
そう簡単に手に入れられたら苦労はしない。
『って、イメージで手に入るじゃん。さあ、出でよ!』
タロウの声が、無常にも響き渡るのみで、剣は現れない。
『またかよっ!イメージが足りないんだな!あれだろ、斬れ味が良くて、かっこ良くて、硬くて…ってか、剣なんて漫画とかでしか見たことないから、よく分からんな。』
剣を知らないで、光の騎士や剣神と名乗るあたり、タロウの適当ぶりが伺える。
『まあ、剣は今度に…ッ!!』
諦めて進もうとした矢先、タロウの表情が強張った。薄暗い通路の奥から異形の化物が現れたのだ。それは二足歩行でありながらも、犬のような顔であり、ゴブリンに比べ、手足も長く背も高い。そして何よりもタロウが緊張しているのは、化物がその手に持っている武器のせいである。
『剣だよな…。』
自分が求めていた武器があることは良いが、それが敵の手にあるのは頂けない。それに、『いくら夢でも、斬られるのは嫌だな。痛くはないが、確実に目覚めるぞ。逃げるか…』
しかしタロウはふと思う。
ー果たして、あのイヌ野郎が自分の走る速さよりも遅いのか。学生時代に陸上部であったが、長距離選手であったため、持久力には自信があっても、瞬発力にはあまり自信がない。
ークハァ、ハァ、ウゥ
涎を垂らしながら徐々に近付いてくる、イヌ野郎。ジリリと、下がるタロウ。自分の心臓の音が、どんどん大きくなるのが分かる。
時間としては数秒にも満たないが、痺れを切らしたイヌ野郎が剣を振り上げて、向かって来た。驚きは、そのスピードである。かなりの速度で迫ってくる!残り4mにも満たない距離で剣を振り上げ飛びかかってきた。
ーヤバイッ!魔法のイメージも間に合わない!斬られー
あまりの恐怖に、目を瞑ってしまうタロウ。
………ゴンッ!カランカラン。
突如鈍い音と、木の棒が転がる音がする。恐る恐る目を開くと、地面で倒れているイヌ野郎が。
『あれ?えっ?斬られて…ない?』
自分とイヌ野郎に起こったことが理解出来ない。しかし、目の前で倒れているモンスター。その手には自分を恐怖に陥れた剣はなく、タロウの足下に落ちている。この機を逃す手はない!
電光石火の如く剣を拾い上げ、憎きイヌ野郎の首筋に突き刺す。その瞬間、赤く、どす黒い血が噴き出す。タロウは構うことなく、とにかく刺す、刺す、刺す。
ーやったか…?
そうして、イヌ野郎はゴブリンと同じように煙となり、後には黒色の石が残されていた。
短時間に多くのことが起こり過ぎたため、
休憩しようとした時
ーパチ、パチ、パチ、パチ、パチ
場にぞぐわない、拍手がタロウの背後から発せられた。