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悪夢の最下層②

グォォォォッ!


岩で出来た竜が怒りの咆哮を上げる。その矛先はセティではなく、巨大な岩山を背負っている亀。しかし、大きさが違い過ぎる。亀はその巨大な左前脚で竜を吹き飛ばす。


ーた、立ってられん!


天地を揺るがす攻撃に、思わず地面を支えにするセティ。亀の強烈な一撃も驚くべきだが、繰り出した前脚のスピードはセティの目で追いきれない程であった。見えたのは、竜が吹き飛ばされる場面と、亀の左前脚が上がっているという結果のみ。


ドゴォン!


竜が木々をなぎ倒しながら、数十m先まで吹き飛んだ。


ーこりゃあヤバイ!夢だろうが、勝てるのが想像もつかん!ってか、どうやって倒すんだよ!


亀がセティを全く気にしていないのを好機と、ゆっくりとその場を立ち去ろうとするセティ。なるべく目立たないよう、逃げてきた密林地帯へと戻ろうとする。漸く、木陰まで来たセティ。もう大丈夫かとチラリと亀を見る。


ギロリ


目だけで直径どれ程の大きさであろうか?竜と同じ漆黒の目はやはりセティを補足していた。恐らくは竜の涎の所為であろう、亀はゆっくりとこちらを向いている。


ゴォォォォ!


ーマジかよっ!あんな巨体に突撃されたら一溜まりもないぞっ!


逃げようとするセティ。しかし次の瞬間、


ズサッ!


『は?』


セティが考える間も無く、亀の無防備な頭に巨大な嘴を突き立てる双頭の怪鳥。この鳥もゴツゴツした岩石で出来ている。そして良く見れば、長く鋭利な尻尾から亀の養分を吸い取っているのであろう。尻尾はポンプのように、ドクトクと膨らみ、鳥へと流れていく。満足したのか鳥はそのまま飛び去っていった。


『………』


余りにも凄まじい食物連鎖に空いた口が塞がらない。自称この世界の創造主たる存在が聞いて呆れるみっともなさである。そして、養分を吸い取られ干上がった巨大な亀に近付くセティ。


ーこんなでかいのを簡単に…


そして急に込み上げてくる、己の無力感。


ーくそッ!Levelさえ上がれば俺だって!どいつもこいつも馬鹿にしやがって!


折れた透刃を手に持ち、亀の顔へと投げつける。


ザクッ


ーあっ!刺さった…


次の瞬間に亀は


煙を上げながら、魔石へと変わっていった。


それは偶然であった。魔力の使い方を知らないセティは、何も出来なかった自分の無力感と、相手の理不尽な強さに怒りを感じ、透刃がどんな物でも貫けるようなイメージをした上で投げつけた。それは紛れもない魔力の片鱗であり、実は死んでおらず瀕死の状態であった亀の顔に突き刺さったのだ。本来であれば、突き刺さる筈もないのだが、養分を極限まで絞りとられている亀の防御力よりも、魔力を通した透刃の攻撃力が上回った。


巨大な亀が姿を変えた、その魔石は、大きさこそ片手で持てる程の大きさであるが、見事なまでの漆黒であり光沢もある。それもその筈であろう。迷宮最下層のモンスターの魔石。しかも、ただの魔石ではない。セティは知る由もないが八大迷宮の最下層のモンスターの魔石。今代の冒険者が得た、どの魔石よりも価値がある。


魔石を眺めるセティ。


『………計画通り!』


完全なる嘘である。どう考えても偶然の産物であるが、見栄を張るみっともなさ。


『ふう、なかなかの相手だったが相手が悪かったな。せめて、安らかに眠るが良い。』


ドヤ顔を決めるセティ。最早この男どうしようもない。



ーーーーー


『どう思われます?』


セティがいる場所から後方に少し離れた木々の上から何者かが話す。


『実力の程は分からないわね。ただ、黒王亀 (こくおうき)黒岩竜(こくがんりゅう)を無傷で倒す人間が弱い筈がないわ』


まるで血を浴びたかのような鮮血色の髪と、頭部から伸びる禍々しい角。およそ、人間とは思えない出で立ちの女性がこたえる。


『…そうですね。人間が最下層(ここ)まで来ていること自体異常ですからね。』


女性に話しかけた者もまた、鮮やかな赤の髪色を持っており。その頭部には二本の角がある。


『とりあえずは様子見ね。間違っても、精霊石に近付くことがあれば、ここで永遠に眠ってもらいましょう。』



悪夢の最下層はまだまだ続く。


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