別れの時
『えっ!?私とセティの二人だけてパーティを組む!??』
驚きを見せながら、アーデルに問いかけるティアリス。話しは、セティがティアリスに殺されかけたと思い込んでいる場面にまで戻る。
『B級以上の冒険者に、八大迷宮の一角である、森の迷宮の一斉攻略のメンバーにならんかと誘われておっての。世話になった旧友からのお願いでのぅ…、初めは断ろうと思っておったが、先程のお主らの話を聴いての。儂はどうしてもティアを過保護にし過ぎる。それでは、互いにとって良くはない。
セティ、お主の想いは充分に伝わった。セティなら、安心して任せることが出来る。冒険者としてのノウハウはティアに叩き込んでおるからの。セティはティアリスから冒険者としての知識を、ティアリスはセティから、強くなるための手段を教わると良い。』
『お父さん…ありがとう!私頑張って一人前の冒険者になるからね!』
ティアリスは迷わず即答する。自分の夢を応援してくれる父親の存在が嬉しくてたまらないのだ。同時に、一人前の冒険者になるという覚悟を父親に見せたいからだ。
ーおい〜っ!ちょっと待て!全く意味が分からん!何で俺がそんなことを!
『待ってください!会って間もない私を無条件に信用するのですか?もし、私が悪人でない証拠なんてないんですよ!第一、(年齢が)離れ過ぎてます。』
セティが決死の反撃に出る。二人っきりでいるなんて身も精神も持たないのだ。30歳のおっさんが血の繋がらない少女と二人旅。もはや、犯罪でしかない。最低限の倫理観は夢だろうと持っているのである。
『セティ。その言葉で信頼に足る。(実力が)離れ過ぎているのも、分かっておる。それに、お主のことは分かっておるつもりじゃ。夢(冒険者になり何を為したいのか)のことものぅ…。だからこそ、お主には逃げて欲しくないのじゃ。何より、教育指導は(実力が)上の者の務めじゃ。S級冒険者になるためには、必須の項目でもあるしの。』
ーくそっ!夢(の世界)だから逃げるなだと。ふざけやがって。やっぱりここが夢だとバラしたのは、間違いだった。これからは、『夢だから逃げるなよ』で全て片付けられてしまう。大体、年齢が上だからって何で他人の教育指導をするんだ。自分のことで手一杯なんだよ。
ッ!かと言って、俺が創るこの夢の世界で負けを認めるなど、あり得ん!
『分かりました。但し、私は容赦はしませんよ!』
セティも諦めて受け入れる。
『勿論!私もビシバシとセティに教えるからね!』
ーお前は自重してください。
俺はノーマルなのに、何でこんなことに…。
『セティさん…もっと貴方のことを知りたかったです。そして、指導をして欲しかった。でも、貴方に会えたことだけで、私は次のステージに進めそうです!次にお会いする時には、貴方の後ろではなく、肩を並べ、いや前を行っています!』
ーリック…指導とか、次のステージとか、後ろ、前とか、お前と離れることが出来るのだけは運が良いよ…。
哀れリック、最後まで、変態を脱却することは叶わなかった。
『それでは、あまり居るのも名残り惜しくなる。何、永久の別れではないからの!…そうじゃ、セティの新規冒険者登録費用は払っておる。儂からの餞別じゃ。』
『ティアリスさん、やすらぎ亭の部屋ですが、もし宜しければお使いください。お金も一ヶ月分は払っていますから。』
『ありがとうリックさん!』
『ティアリス、頑張るのじゃぞ』
愛娘を抱き締めるアーデル。強がってはいるが、本当は寂しいのだろう。今にも泣きそうである。
『うんっ!』
元気に応えるティアリス。本当に仲が良い親子だ。
『セティさん、またお会いしましょう』
ーやめてっ!
抱擁を回避しようとするも間に合わず。リックに抱き締められる。
ー変態も怖い…サディストも怖いよ…
哀れセティ、その勘違いはまだまだ続く。