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侮れない女

セティとティアリスがギルドを後にしてからほんの数分後、アーデルとリックがギルド前に現れた。


『駄目です。宿泊先にもいませんでした。アーデルさんはどうでしたか?』


『ふむっ、儂の方もさっぱりじゃ。』


待ち合わせもあるため、仕方なくティアリスが待つであろうギルドに入る二人。しかし、そこはいつものギルドとは異質な空間だった。そこには、熱があり、冒険者達が異様な盛り上がりを見せていた。


『いや、久しぶりに背筋が震えたぜ!』


『あぁ、年齢関係なくあれこそまさに、男の憧れってやつよ!』


『あの子、可愛いかったわね!それに格好良いし、誰か詳しいこと知らないの?』


『情報屋!あいつのこと知ってるか?』


『い、いえ、それが私も今日が初めてでして…』


誰も彼もが噂をしている。この盛り上がり振りは異常である。


『一体、どうしたんでしょうか?』


『ふむ、さぁてのぅ…!』


二人ともが首を傾げる。


『あれっ?ティアリスさんがいないですね?』


そこで漸くリックがティアリスがいないことに気付く。セティを探しに行ったのだろうか?いや約束を違えるはずがないと冒険者に聞こうとした矢先、


『アーデルさんっ、リックさんっ!』


冒険者の一人が声をかけたと同時に、一斉にギルド内の人間が目を向ける。元々名の知れた冒険者でもあるアーデルやリックであり、注目も浴びることが多かったが、今日はその様相が異なっている。


『アーデルさんっ!大変だったんですよ。ティアリスさんが、グロックの野郎『なんじゃとっ!!!!ティアは何処じゃ!グロックは何処におる。』がっ…ぐ、ぐるしい…』


恐ろしい形相と信じられない怪力で、自分よりも背の高い冒険者を軽々しく持ち上げ、問いただすアーデルを、周りの冒険者が慌てて止めに入る。本当にティアリスのことが心配なのだろう。


『お、落ち着いて。ティアリスちゃんなら大丈夫だから。』


周りの冒険者達が二人に事の顛末を説明する。




ーーーー


『セティが、ティアを…』


心底安心している様子のアーデル。普段の彼を知っている者からすれば、これ程までにアーデルが取り乱すのを見たのは本当に久方ぶりである。


『流石セティさん!』


リックも自分のことのように嬉しそうである。


『全く心臓が飛び出るかと思ったわい、それで、二人は何処に行ったか分かるかの?』


『い、いやそれが、あまりの出来事にそれどころじゃなく…』


済まなそうに言う男。


『とりあえず、セティさんがティアリスさんの傍にいるなら一安心ですよ、アーデルさん』


『そうじゃの…。』


するとそこに、


『アーデル様、リック様。』


二人を呼ぶギルド職員の声が聞こえる。


『お話し中失礼致します。ギルドマスターがお呼びでいらっしゃいます。どうぞこちらへ…』


顔を見合わせる二人。

グロックを圧倒したことでセティの実力は確かなものとなった。正面からグロックとやりあったところを見るに近接戦闘もかなり出来るのであろう。ティアリスの無事な姿を一目みたいが慌てて探す必要もない。セティが傍にいれば全く問題もないであろう。


『分かった。』


二人はギルド職員に案内され通用口を通り、ギルドマスターがいる三階へとあがった。




『久しぶりじゃのう、アーデル!』


アーデルとリックが入った部屋には三人の人間がいた。この支部のギルドマスター、総支部のギルドマスター、アイズと名乗った冒険者である。


『ドニール!』


一瞬驚くものの、直ぐに笑顔となるアーデル。二人は堅く握手を交わした。


『総支部のギルドマスターが一体どうしたんじゃ?』


『うむ、実はのう…』


ーーーー



場面変わって、街中を歩くセティとティアリス。二人の間に会話はなく、どことなくぎこちない。


ーなんなんだよこいつ。さっきから一言も話さないし。そんなに女の子扱いされたのが、悔しかったのか?俺のことを散々責めておいて、都合が良いもんだ。


相変わらず性格の悪いセティ。冒険者ギルドから出て、かれこれ数時間。当てもなく街中を彷徨っていた。


ー待てよっ!こんな街中で喚き散らすとかじゃないよな?おいおい、上手くかわしたつもりが、まさか追い詰められていたのはこの俺だと言うのか!敵を油断させるには、相手に自分の思い通りに事が進んでいると錯覚させる。完全に相手が油断しきった所で、問答無用の容赦ない一撃をくらわせる。思わぬ反撃で効いた、なんて単純なものじゃない。格下と見下していた相手に、一発逆転の攻撃を浴びせられるという苦痛と、こんなはずではないという自身への自己嫌悪を誘発させる。とんでもねぇ女だ、相当な策士だぞ。くそっ、ここは街中だ。相手の術中に嵌った、遅かったか…。


一体ティアリスを何と思っているのであろうか?そして苦悶の表情を浮かべるセティ。勝手に嵌って、相手に文句を言う。こいつこそ、とんでもない男である。


『どうして…どうしてそんな顔をするの?』


ティアリスがセティに問いかける。


ー分かってて責めたてるか…サディストの華だな。


『私が、もっと気付いていれば。こんな(お前の策略に嵌るなんて)ことにはならなかった…』


悲痛で苦しそうなセティを見たティアリス。『貴方が悪いなんて、そんなこと絶対に違う!』悪いのは、何も出来なかった自分である。彼の優し過ぎる心が、今の彼女には一番堪えた。


『私ね…何時だってお父さんやリックさんを頼って、守られて、自分は殻に閉じ籠ってばかり。』


ーは?何言ってんだ?俺を責めたてるかと思いきや、いきなり語りだしちゃったよ。


確実に口撃をくらうと思っていたセティは困惑した。されないにこしたことはないが、サディストが自分を語るという行動を不気味に感じたのだ。


『そんなんじゃ、気付かないよね。弱いままの自分は何一つとして成長していなくて、何一つやり遂げていなかったんだって。勝手に自分は強いと勘違いしていた。遅かれ早かれ何時かはこうなっていたんだよ。その何時かが、たまたま今日だった。』


ーほう、案外謙虚じゃないか。


悲しそうな顔で話すティアリスに、完全に上から目線である。


『ダメな私だから、いつもお父さんやリックさんが絶対の盾となって守ってくれた。そして今日も…。』


『そんなこと…『いいの、慰めは大丈夫。』ぁ…る』


ーちっ、被せてきやがって、誰が慰めるかよ!


『結局私は弱いんだって気付かされた。ううん、事実から逃げていただけ』


ーだろう、だろうな!そう、君は弱いんだ!そして、俺こそが真の強者!


セティ、お前は自重しろ。


『偉そうにセティに、意味があるって証明して見せるって言ったのに、そんな実力もなければ、資格もない。貴方と同じスタートラインに立ててないんだもの』


ーはい、まさかの敗北宣言が来ました。成る程、策士かと思いきやそうでもなかったみたいだな。まぁ、悲観するな。相手に恵まれなかった、それだけだ!せっかくだし、勝利宣言をしてやろうじゃないか!


『ティアリスさんは、(この俺に)勝てないと分かっていても、諦めず、立ち向かう勇気がある。そして何も出来なかった自分の弱さを知り次にどうするべきかを考えることが出来る。それは、大切なことです。』


セティが優しく諭すように語りかける。


『実力がものを言うこの世界で、弱い者は(お前のように)蹂躙される。たまたま、相手が悪かったでは通用しない。でも、(夢から)醒めなければ何度だって(この俺に)挑戦出来る。貴女が言われたように自分を高め、成長させることが出来るんです。格好悪い足掻きでも、必死に努力をする姿そこに意味がないなんて言わせません。諦めずにいれば、いつか大輪の花を咲かせます。私はいつも(遥か高みから)見ていますよ』


ーまぁ、その前に夢から醒めるがな!いや勝利した俺にもうこの場所は意味がない。醒めろ!醒めるんだ!


あまりのカスっぷりである。


『(冒険者への想いが)冷めなければ、こんな私でも、強くなれるかな?』


すがるような目で見つめるティアリス。


『えぇ、醒めなければ必ず。貴女ならきっと出来ます。ティアリスさんの強さ(粘着サディスト女)は僕が一番分かってますから。』


『っ!!セティ〜』


セティに抱きつくティアリスその目は赤く、涙が浮かんでいる。


ーッ!!!???やばい、調子に乗り過ぎたか!?

殺される!た、助けて!


本当に台無しである。


抱きつきながら、ティアリスは言う。


『私ね…。もう一度、最初から鍛え直そうと思うの。じゃなきゃ、何時迄立っても一人前になれないから!…セティ、私のこと…見ていてくれる?』


本当に殺されると思い込んでいる今のセティにティアリスの言葉は耳に入ってこない。必死になんとかしようと手を動かすもガッチリホールドされており動けない。


『はっ、い(きが苦しい)!』


若干くぐもった声だが、ティアリスには伝わった。


『ありがとう、セティ!』


ー前言撤回…こいつはやはり侮れん…


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