それは悪夢の続きか
『遅いね〜セティ。』
頬を少し膨らませながら言うティアリス。時刻は朝の8時10分であり、待ち合わせの時間を10分経過している。
『宿が遠いのかのぅ。』
『いえ、僕と同じやすらぎ亭に泊まっているので、かかっても20分位だと思いますが…でも宿を出る前に部屋をノックしましたが、気配もなかったのでもう出たのかと…』
そう話すリック。真面目そうなセティが寝坊をするだろうか?そんな会話をしながら、8時30分になるも未だ現れない。いよいよ心配になったティアリスが言う。
『私宿に行ってくるね!もしかしてまだ眠ってるのかもしれないし。』
『いえ、それでは僕がもう一度宿に行きますよ。宿の部屋も分かりますし、ティアリスさんは、入れ違いにならないようギルドにいてください』
『儂はそれでは、街中を探してみるとするかの。9時にはもう一度ギルドに集合するとしよう』
『『はい!』』
そう言ってアーデルとリックはそれぞれ、セティを探しに向かい、ティアリスは、ギルドの中へと入っていった。
ーーー
『ここは何処だ…』
自分は何をしていただろうか。昨日のことがよく思い出せない。
『確か、ご飯を食べて寝て…』
記憶が定まらない。部屋の中を見渡す。ふと、床に木の棒が落ちている
『汚いな。何で木の棒が… 木の棒…
そうだ、確か変なやつらにパーティになれと言われ、それで仕方なく…ご飯を食べて…魔石を貰って…っ!
思い出した。経験値を得るために魔石を砕こうとしたんだ。』
ちなみに、リックは魔石を砕いて、経験値を得るなんて一言も言ってない。本来は、魔石に自分の魔力を流すことで、魔石が反応し、魔力を流した人に力が渡るという仕組みではあるが、セティはそんなことを知らない。
『棍棒で叩いても、剣で刺そうとしても駄目で、魔法でやろうとしたんだ。そのあと…急に意識を失って。うーん、分からん。それに、夢の中で寝るとか珍しいな。まぁ、いいか。』
考えるも分からないので、投げ出すセティ。そして気付く…
『しまった今何時だ…?待ち合わせは確か8時だったよな…日も昇ってるし…。あのサディスト女に責める材料を…』
とその時、
コンコンコンコン、
『セティさん?もしかしてまだ寝てますか?』
リックの声である。
『多分、外には出られてないと思いますよ。朝食にもいなかったですから。』
アリーの声も聞こえてる。
『そうだ、マスターキーを持ってきますね!』
『あぁ、よろしく頼むよ!』
ー不味いな。おっさんが寝坊とか洒落にならん程、恥ずかしいぞ…なんとか誤魔化す方法を…
部屋を見回すセティ、そして…
『鍵を持って来ました』
『ありがとう。
セティさん、開けますよ。』
リックが扉を開けて部屋の中に入る。
『誰もいませんね?朝早く出られたんでしょうか?』
アリーがリックの後につづき部屋に入る。
『みたいだね。もしかしたら入れ違いになったのかもしれない。アリーありがとう。』
リックはそう言って、足早にギルドへと戻っていく。
『行ってらっしゃいませ、リックさん。…あれ?窓が開けっ放しですね。』
そう言いながらアリーは窓を閉める。
ーーーー
『ふぅ。何とか間に合ったみたいだな。』
街には、走りながらギルドに向かうセティの姿が。セティが、気付かれずに部屋から出た方法は単純である。部屋の窓から飛び降りたのだ。
『にしても、4階から飛び降りても痛みがないとは、夢とは便利だな。しかも、体もなんだか軽いし!』
そう言いながら、速度を上げるセティ。
『日課の朝の訓練に熱中していたということにしよう。』
何処までも卑怯な男である。
『見えた!』
あと少しで、ギルドに着く。少しでも心象をあげようと、更に速度を上げる。
ー開口一番、申し訳ありませんでしたで、完璧だな。
全く完璧でない。彼は自分を神か何かと勘違いしているようだ…いや、神と宣言していた。
『よし、階段を昇って、あの扉を開
ければ、、うわっ!!!!??』
あまりにも勢いを付けすぎたセティ、ギルド前の階段を駆け上がる際、最後の段で躓いてしまう。そしてそのまま、ギルドの押し扉を物凄い速さで開ける。
ー止まらんっ!転ける!咄嗟に目を瞑るセティ。
ードスッ!
鈍い感触がするがするが、それどころではないセティ。なんとか、倒れずに踏むとどまったようだ。セティの姿勢は、足を大きく広げ、掌を前に出している。
ーふぅ、やっと止まった。良かった、よかった…ん?
恐る恐る目を開けるセティ。そこには、充血した目をしたティアリスと、見知らぬ大勢の冒険者達がこちらを見ていた。
ーこりゃ、ヤバイな…
セティの夢はまだ醒めない。