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危険な男

『『『えっ!!??冒険者カカードがない!!??それに、身分証も!!??』』』


ティアリス達が口を揃えて、驚きながら言う。

そう、セティはそもそも冒険者ではなければ、この世界の住人でもないため、正式な登録証も、身分証も持っていない。冒険者として活動するためには、先ずはギルドで冒険者登録をする必要がある。そして、冒険者登録をするには身分証が必要となる。通常身分証がなければ、お金によって保証料金を払う必要があるが、銀貨10枚と高額である。しかし、そんな事情を知らないセティは


ー夢の世界の癖にいちいち細かいんだよ。細部は適当で良いんだよ!


と、愚痴り全開である。



『冒険者登録は勿論しておるんじゃろ??』


素朴な疑問をアーデルが投げかける。迷宮探索自体は冒険者でなくても出来る。しかし、冒険者でない者は、迷宮において得た利益物(魔道具、武具)をギルドに買い取ってもらうことが出来ない。ギルド以外の店でも売れるには売れるが、ギルドの取扱い値段よりも安くたたかれることが多い。そのため、冒険者として活動するには、先ずはギルドにて登録を受けなければならない。

アーデル達もまさか、セティが冒険者カード、身分証自体を持っていないとは思っていなかった。というのも、セティに初めに会った時に確かに冒険者であると聞いていたからである。


『申し訳ありません。身分証は色々あって…。それに。迷宮を探索する者が冒険者だと思っていました。登録が必要なんて…教えてくれる人もいなかったので』


少し悲しい表情を見せるセティ。子どもにこんな顔を見せられては、深く追求も出来ない。


『良い。それでは明日は、ギルドでお主の冒険者登録をしようかの。丁度、ギルドへの報告事項もあるからのう。冒険者については、明日は ギルド職員から説明があろう。その時にゆっくり聞くと良いぞ!勿論、冒険者登録の保証料金は儂が負担するから安心せい。』


ー創造主様だからな。まぁ当然だ。苦しゅうない!


一体お前は何様だ。感謝という言葉を知らないセティ。



こうして、セティの歓迎会も終わった。帰りに、冒険者ギルドの場所をセティに教え、一同は帰路に着く。その際アーデル達が自分達の家に誘ったが、寝る時位は一人で居たいという思いから、頑なに断った。


『それでは、宿に行きましょうか。セティさんはどちらにお泊りなんですか?』


ーこれは不味いな。変態リックとも早く離れないと…俺の貞操が危うい。


いわれなき、変態のレッテルをはられた リック。不憫な男である。


『リックさんはどちらに?』


一緒に居たくないものの、街の地理が全く分からないセティは、とりあえず聞いてみる。


『やすらぎ亭ですよ。あそこは、朝・晩と食事付きで、値段も安いですし、オススメですよ。』


ーこいつと一緒は嫌だが、宿の場所も知らないからな。仕方ない…


『そうですか!まだ街に来たばかりで、良い宿も知らないんです。今まで泊まってた場所も、丁度今日宿を引き払ったので、何処に泊まろうか、迷っていたんです。私もそちらに泊まります。』


『それは良いですね!同じパーティですから、親密な関係は大事ですからね。セティさんさえ良ければ。一緒に部屋を借りますか?』


ーアウト〜!やはりこいつはそっちの趣味を持っていたか。マゾに加え、男色とは…不味ったな。断固拒否だ。


『リックさんに悪いですから!自分で宿はとりますよ!』


『そう言わず、是非一緒に!セティさんのことをもっと深く知りたいですし、何よりセティさんのことを知ることは自分にとっても大きな経験値になります。色々と語り合いましょうよ!』


リックからすれば、冒険者として尊敬しているセティの経験を聞きたいのだ。今日の戦いから、かなりの実力があることは間違いなく、しかも底が見えない。S級ランクを目指す彼からすれば、実力者であるセティの話しを聞きたいと思うのは当然である。しかしながら、相手が悪すぎる。


ーしつこいな。ストーカーはサディスト小娘だけかと思っていたが、こいつも相当な粘着野郎だな。しかも、深く知りたいとか、経験になるとか、訂正だ。こいつは、ガチで危険な男だ。出来るだけ、無関心でいないと。


『すみません…。実は人が一緒にいると眠れないんです。落ち着かなくて』


適当なことを言うセティ。


『っ!そうですよね…。申し訳ありませんでした。』


ーそうだよな。セティさんは命の危機がある内乱の中で暮らしていたんだ。同じパーティになったとはいえ、会ったばかりの人間を警戒するのは当然だよな。


勝手に解釈をするリック。まだ、か細いが繋がりは出来た。急いでその糸を太くする必要はない。時間をかけていこう。そう思うリックは、穏やかな表情でセティに伝える。


『では、宿の料金は僕がお支払いします。それ位はさせてください。』


ーなんだ、こいつ…。その顔がなんかむかつくな。まぁ金もないし、それは甘えておくか。


『ありがとうございます。気を遣わせてしまい申し訳ありません。』


恭しく謝るセティ。本当に内面と外面の違い過ぎる。



カラン、カラン


リックが宿の扉を開ける。


『あっ!リックさん。お帰りなさい。』


扉を開けたのと同時に、元気のよい声が聞こえる。セティが目を向けると、中学生位の歳であろうか、少女がカウンターの向こう側にいた。茶色のショートヘアーで、顔立ちも整っており、いかにも可愛いらしい。


ーまた、ガキか。宿屋気取りか?労基法も真っ青だな。


などと考えるセティ。基本的に彼はあまり子どもが好きではない。


『ただいま、アリー。』


どうやら少女はアリーという名前らしい。


『あれっ?そちらの小さなお客さまは?』


『ああ僕達とパーティを組むことになったんだ。彼の分の部屋も頼むよ。とりあえず、一ヶ月位かな。はい、お金。』


『そうなんですか!?初めまして。小さな冒険者さん。私は、やすらぎ亭のアリーです。これからよろしくお願いします。では、宿の説明をしますね。』


『初めまして。セティです。よろしくお願いします。』


ーふぅ、この夢の世界のやつらは、どうやっても身長を馬鹿にするらしいな。怒るのも嫌になってきたわ。


セティは足取り重そうに、アリーの元へ向かう。


『改めてまして、ようこそやすらぎ亭へ。この宿は、朝と晩の二食付きで、一泊5銅貨となります。リックさんから、一ヶ月分は頂きましたので、お金は大丈夫ですよ。タオルも備え付けがありますので、ご利用ください。ご利用後は、部屋の外にある籠に入れておいてくださいね。朝入っているものは、夜には洗濯をしておきますので。他に何かあればお伝えください。朝ご飯は、5時から10時まで、夜は18時から22時までとなっていますから。何か他にご質問はございますか?』


丁寧な説明のアリー。相当、慣れている、淀みない説明である。


『いえ、大丈夫ですよ。ありがとうございます。』


ーーーー


『ではセティさん。明日は8時にギルドですからね。ティアリスさんは、時間には厳しいので、大丈夫かと思いますが、ご注意くださいね。それと、僕は3階の4号室に居るので、何かあれば。』


『分かりました。ありがとうございます。』


ーいかねーよ。それとこいつは、相当遅れたんだろうな。サディストにマゾ…カオスなパーティだ。


失礼過ぎるセティ、相当な性格をしている。


『おっと忘れる所でした。これを、』


そう言いながらリックは、透明色の石を渡す。セティが倒した、ラビラントシャドースライムの魔石である。


『ラビラントシャドースライムの魔石は高価なので、売ってもいいですが、中々討伐出来ないですからね。やはり経験値にした方が断然良いと思いますよ。っと、セティさんには余計な情報でしたね。』


ーへぇ、金はこいつらに出させるからいいとして。魔石は砕いて経験値か。まさに異世界だな。


『ありがとうございます。拾って頂けたんですね。魔石は…そうですね。検討してみます。』


リックと別れ、部屋に入るセティ。ベッドに鏡台、収納箱が一つ、窓が二つと簡素ではあるが綺麗にされている。


ー経験値っ!けいけんち!!


いい歳したおっさんがはしゃぐ。子どもの姿でなければ、かなり気持ち悪い。


『さてと、あれっ?どうやって砕経験値にするんだ?』


やり方が分からないセティ。ゴブリンから奪った棍棒で叩いても砕けない。


『くそっ!敵を倒したら経験値を得るっていう仕様に変えてくれないかな。面倒だろーが。』


思い通りにいかないと、すぐに文句を言うセティ。本当に30歳だったのだろうか?


『仕方ない、ちょっと危ないが、この透刃で…くそっ!ダメじゃねーか。頑丈過ぎるぞ。こうなったら、魔法で…』


刃の切っ先を魔石につけたま火を出そうとイメージするセティ。その瞬間、


『っ!!!!!』



セティの体を今まで感じたことのない、痛みと熱が襲う。そして、そのまま意識を失った。



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