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新たなる決意

『改めて、宜しくねセティ!』


満面の笑顔で話しかけるティアリス。四人がパーティを組むことに

なり、早速祝いと歓迎を込めて食事に向かうことになった。セティとしては、夢の世界での料理など生産性の無い、何ら意味を為さないことであるから本当は断りたかった。しかし、断れば逃げたと思われため、その選択肢は取れない。嫌々パーティを組まざるを得ないという、どうしようもない現状に完全に意気消沈していた。そして連れられるがままに来たのが、この世界では一般的な食事処でもある大衆酒場である。夕食時でもあるため、混み合っており、かなり騒がしい。


『セティは何が良い??ここは、ブルタンクのミルクが美味しいよ!それとも、ルプアジュースにする?』


ーこのガキっ!舐めやがって!俺が低身長だから、ミルクで十分だろってか!?しかもルプアジュースってなんだよ!そんな胡散臭いのなんか夢だからって飲む訳ねぇだろうが。ただでさえ落ち込んでるのに、容赦なく責めてきやがるとは。ここは、当然酒に決まってんだろうが酒に!酔えねぇだろうけど…


彼の固定されたイメージはちょっとやそっとじゃ揺るがない。


『ビールをお願いします』


『えっ?ビィル?本当に?』


驚き、聞き直すティアリス。


『はい。大好きですから。』


『小さいのに、凄いね!』


ーまた身長をっ!こいつっ…粘着サディスト女にも程があるぞ。





『それでは、新しい仲間との出会い、そしてこれからの儂らの躍進に…!』


『『『乾杯っ』』』


『…乾杯…』


盛り上がる三人と盛り下がる一人。心情は対照的である。それもその筈、セティの持っているグラスには、緑色と紫色が混ざりあった毒々しい液体が。


ーなんだ…これは…。何が、ー『はい、ビロッコ・イル・ルプアだよ!』だ。完全に、産業廃棄物じゃねぇか!俺が頼んだのはビールだぞ!


ビロッコ・イル・ルプア 通称ビィル


ビロッコの実、イルの実、ルプアの実をすり潰したジュースである。ジュースといっても、只の甘味飲料ではない。苦みが強烈なビロッコの実と、酸味の王様であるイルの実、ほんのり甘いルプアの実から出来た絶妙な不味さを誇る飲み物である。しかし、この三種の実を飲み物として同時に摂取することで、栄養満点な所謂野菜ジュースとして効果を発揮することは有名である。ただし、余りの不味さに、中々飲んでいる人はいない。


ーさっきの仕返しだよな。精神力では飽き足らず、物理的に、肉体を削りにきたか…


一人そんなことを考えるセティ。夢でも、こんな毒々しい物は飲みたくない。口をつけた振りをして、最初の一口をやり過ごす。


ーてめえの思い通りにはいかねぇよ


断固たる決意で立ち向かうセティ。一体何と戦っているのか。悲しい限りだ。

セティが孤軍奮闘している間も、目の前に出されるたくさんの料理。どれも美味しそうな料理ばかりだ。


『今日は特別な日じゃのう…』


そう言うアーデル。しかし良くみれば、どこか物悲しいような郷愁感が漂っている。ティアリスとリックはそれに気付いていない。


『本当ですね。素晴らしい日とは、まさに今日のようなことを言うんですね。』


リックも続けて話す。


『そうだよね!これからが楽しみ!』


『明日からはどうしますか?』


『そうじゃのう…、』


会話が弾む三人とは別に、セティは一人目の前の食事を見る。


ー何が素晴らしいんだよ。目の前には謎の毒物ジュース、食べても意味が無い料理、うざい奴等。まさに最悪だよ。


顔には出さないものの、今にも泣き出したいセティ。


ーまぁ、飯くらいなら。フォークで刺したのは何かの肉。期待もせず、口に運ぶ。


『っ…!美味しい…』


鳥肉のような淡白な見た目ではあるが、口の中に入れた瞬間、芳醇な香りが鼻腔を刺激する。そして一口噛むたびに肉汁が溢れ、口の中をその甘みと旨みで満たす。それでいて、脂っこくなく食べやすい。期待せず食べた分、余計に美味しく感じる。


ーなんだこれっ!めちゃくちゃ美味しいじゃないか!何で夢で味がするんだ!?いや、そんなことより、この肉だ!うめぇっ!こっちの野菜も、スープもどれも逸品じゃねぇか!


一心不乱に肉を食べるセティ。周りから見れば、可愛い子どもが夢中になってご飯を食べる微笑ましい姿。貴族設定などは既に忘却の彼方の、食べっぷりである。そして料理を一人で殆ど食べ切ったセティ。ふと、アーデル達を見やる。そこには、じっとこちらを見つめる三人の目があった。


ーやべ…あまりの美味しさに夢中になり過ぎて、ほぼ食っちまった。おっさんが料理を一心不乱にがっつくとは、ー身長も低ければ、収入も低いんですか?ーなどという、サディストに対して格好の責める材料を与えてしまった。そして、ー何やってんだこのおっさんーという視線がかなり痛い。言い訳を考えないと…


自分の非を認めず、取り繕おうとするセティ。本当に悪い性格をしている。


『も、申し訳ありませんでした。皆さんで食べる分を、一人で食べてしまって。こんなに美味しい食事をしたことなんてなかったですし、誰かと食べる食事なんて久しくなかったから、つい何時もの癖で…本当に申し訳ありませんでした。』


思ってもいないのに、本当に申し訳なさそうに謝るセティ。さらに、体裁を保とうと、表情に陰りを落とし、ちょっとした可哀想な背景を付け足す。小癪な男である。


三人は悲しそうな表情をする。周りのガヤガヤした空間とは切り離されたかのような異質さが四人を包んだ。


『儂らは今日会ったばかりじゃが、一緒にパーティを組むことに、なったいわば運命共同体じゃ』


ー運命共同体?はっ、寝言は寝て言えよ、ゴリラ!


反省の欠片もない。


『だからこそ、セティお主に聞いておかねばならん。例え、心の傷を抉ったとしてものう。』


『お父さん!!』


ティアリスの非難する声がアーデルへと向かう。


『ティア、少し黙っておれ。これは大事なことなんじゃ。』


『でも…『ティア!』っ!…分かりました。』


ティアリスは悲しそうにセティに目を向ける。リックも真剣な眼差しでセティを見つめる。


ーリック、気持ち悪いからあんま見んな。それから、サディスト小娘はざまぁだな!叱られてやんの。大体、てめぇは…


脳内で罵りまくる、安定して最悪なセティ。


『言っておったのぅ。貴族であり、出身は遥か東の閉ざされた国、そして珍しい黒髪、セティ。お主は、フォルファレン公国の出じゃな。


ー神妙な顔しやがって、本当は必死に食事の件をどう責めようか考えてんだろ?そうはさせねぇぞ。


アーデルの言葉はこれっぽっちも耳に入っていないようだ。まるで聞いていない。俯くセティを見て、是ととるアーデル。


『ここ西方大陸では、遥か海を隔てたフォルファレン公国は無名の国じゃった。じゃが、古くより謎とされていた、八大迷宮伝説の一つである海底迷宮がフォルファレンの目と鼻の先で発見されてからは、一躍有名となった。そして、変わってしまった。迷宮の探索に乗り出した多くの国家が、フォルファレンへと行き国を変えてしまった。多くの国の利権に巻き込まれ、内乱が生じたと聞いておる。当時、Sランク真近であった西方大陸のAAAランク冒険者達が、フォルファレン公国の内乱に巻き込まれ、命を落としたことを聞いた時は誰もが言葉を失ったものじゃ。』


『『っ!』』


ティアリスとリックはアーデルの言葉に大きく反応する。しかし、セティは自分の世界に入っているため、気付くはずもない。


ー大体会ったばかりの人をパーティに誘うって、どんだけ人材不足なんだよ。まぁ俺に目をつけることは褒めてやるが、こっちも目をつけられる人を選びたかったぜ。それに、人の失敗を責めるなんざ笑えねぇ趣味をしてやがる。何とか、こいつらの思い通りにならない方法を…俺に対する興味を無くせないものか…興味…?


言いたい放題のセティ、これで表情だけは立派に悲しみに溢れているんだから大したものだ。


『内乱により、フォルファレンは滅びたと聞いておる。迷宮、国家、そして冒険者によって、お主の故郷は失われたといっても過言ではない。そんなお主が、冒険者を夢と云うのには驚いたものじゃ。仇のような存在を夢とする一方で、その存在を、意味がないとする。まだ、子どもにも関わらず、もし、復讐や何も出来なかった自分を責め、死に場所を探しておるのなら、儂は命に代えてでもお主を止めるぞ!』


『お父さん…!?』

『アーデル…さん?』


アーデルの並々ならぬ意志、二人は疑問に思う。何故そこまで…。パーティとはいえ、肩入れが常軌を逸している。パーティは永遠のものではない。新しい人が加入したり、脱退したり、様々である。にも関わらず、セティに対してこの思い入れよう。二人かその理由を知るのはもう少し後である。


ーそうだよ!その手がある!

相手を責めたてれば変態リックのことだから、喜んで気持ちが悪い。逆に、責めなければサディスト小娘の格好の餌食となる。しかし二人の存在は無視は出来ない。こいつらに有効なのは、即ち興味がないように接する、つまり無関心でいること!適当に相槌をうち、リアクションもその他大勢にするかのような普通なもの。責めないし、責められても反応しない。常に無関心でいること!俺のスタンスは決まった!先手を打たれる前にうつ。

創造主であることはバラした。だからこそ、あえて宣言をする。無関心であることを表明することで、一緒にいながら貴方達には特別な感情を持っていません、ただ一緒にいる。それ以上でも以下でもないということを認識させる。小娘にとっては、反応が返って来ず欲求不満に、変態にとっても何らアクションを起こしてくれない!と欲求不満に。得てして、小娘と変態が互いに慰め合えば良し!

サディストの攻撃に耐え切れず、万が一、泥試合のどツボにはまり自分を制御出来なくなったら、この良心的なゴリラに助けを求めよう。ゴリラも泣いて喜ぶはずだ。頼りにしてるのは、ゴリラだけとも伝える。それも、この、二人には堪えるはずだ。我慢にはなるが、仕方ない。良しっ、決まった!


何がどうなったら良しなのか理解に苦しむが、セティの腹は決まったようだ。そしてアーデル達に応える、


『(この世界が)最悪な夢であることに変わりはありません。でも、私は夢(の世界)にずっと憧れていました。夢(の世界)であれば、何でも出来る。誰もが認めてくれる。そう思ってました。でも、夢(の世界)であっても完璧じゃない。自分の思い通りにいかないことも当然ある。そんな、当たり前のことに気付けていなかった。だからこそ、(お前ら

みたいな奴らに目をつけられるという)過ちを犯してしまった。失った時間は戻らず、取り返しがつかない。もう二度と取り戻すことは出来ないけれど、それでも立ち止まる訳にはいかないんです。だって、小さな頃から今までずっと、夢(の世界)に憧れてたから。また再び、(違う異世界ものの)夢(の世界)を。今(今回の夢の世界)は、無意味な夢だけれど、必ず夢(の世界)を極めます。確かに(サディスト女は)許せないけど復讐は考えてません。だから、(夢の創造主である)私は(サディスト小娘と変態リックへの)無関心を貫きます。でも、どうしても自分が抑え切れなくなった時は、私を止めてください。きっとそれが出来るのは貴方だけだから。』



ーーーーー


『最悪な冒険者(夢)であることに変わりはありません。でも、私は冒険者(夢)にずっと憧れていました。冒険者(夢)であれば、何でも出来る。誰もが認めてくれる。そう思ってました。でも、冒険者(夢)であっても完璧じゃない。自分の思い通りにいかないことも当然ある。そんな、当たり前のことに気付けていなかった。だからこそ、過ちを犯してしまった。失った時間は戻らず、取り返しがつかない。もう二度と取り戻すことは出来ないけれど、それでも立ち止まる訳にはいかないんです。だって、小さな頃から今までずっと、冒険者(夢)に憧れてたから。また再び、冒険者(夢)を。今は、無意味な冒険者(夢)だけれど、必ず冒険者(夢)を極めます。確かに、許せないけど復讐は考えてません。だから、私は無関心を貫きます。でも、どうしても自分が抑え切れなくなった時は、私を止めてください。きっとそれが出来るのは貴方だけだから。』


絶句する三人。故郷がなくなり、もしかしたら家族も失ったのかもしれない。子どもなのに、あまりに成熟し過ぎている。この小さな身体にどれ程の覚悟と決意を宿しているのか。だからこそ、それに応えなければいけない。例えそれがどんなに残酷な結末になったとしても。



彼等の勘違いはこうして加速する。



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