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それは悪夢か…

ーえっ?これ、どういう状況なの?この女怖いんだけど。


本気で怖がるセティ。普通の男であればティアリスのような、美少女に抱きしめられれば、喜ばない訳がない。しかしセティは未だに自分の外見が変わっていることにも気付かず、彼女のことをサディストのガキとかなりの色眼鏡で見ている。だからこそ、何故自分がこの状況に置かれているか、その理由が1㎜も理解出来ない。


『 そっか(冒険者が)夢なんだ。』


ティアリスがセティの肩に手を置き再び優しく問いかける。


ーどう言うことだ…?夢の世界と分かっていながら自分を受け入れている…?そんな馬鹿な…!


『…っ!?…ええ夢(の世界)です』


思い描いていたのは、ーそんなっ!この世界が夢なんてーと慌てふためく相手の姿。真逆の事態に驚くセティ。こんな返答が返って来ると思わなかったのか、途切れそうな声で答えるセティ。内心の事情を知らない人からすれば、悲しみに溢れた声に聴こえる。


『夢(冒険者)なのに、どうしてそんなに悲しそうな顔をするの?』


意を決したように尋ねるティアリス。少しでもこの少年の双肩にかかっている'何'かを軽くしたい。例え嫌われたとしても。


ーそれはてめぇの所為だろうが!

ふぅー、落ち着け、サディストは自分のペースに巻き込んで、弱みをついてくる。自分のフィールドで闘うんだ!このガキがリアルの世界に影響することは、皆無!この場限りの関係だ!


『夢(の世界)だからだっ!所詮夢(の世界のお前ら)なんて、何も変えることが出来ない無意味な存在なんだっ!!』


力強く言うセティ。サディストに対して弱みを見せることは禁物である。


『違う、そんなことなんてない!私達(冒険者)は、無意味なんかじゃない!』


セティの感情を剥き出しにした、言葉と表情に驚くティアリス。せっかく知り合いになれた少年。初対面でこんなことを言う人なんて、嫌われるかもしれない。特に、その人にとって触れられたくないことであればなおさらだ。それでも、逃げる訳にはいかない。もし、冒険者が無意味な存在と認めてしまえば、それはセティをも否定してしまうことになるから。


ーなに〜っ!まさかの反論だと!夢の世界の住人の癖に!


悲しいかな、二人の気持ちが交わることはない。


『無意味だっ!夢では、どんなに頑張ったって、認められたって現実は何も変わりはしない!』


『そんなことないっ!例え小さな力でも、そこに私達がいる限り変えられるよ!』


『力をつけて、英雄になったとしても、それは全て偽りだ!そして、気付くんだ。時間が経てば(夢から醒めれば)何も残らない!僕は、それを知ってるっ』


『っ!違う!』


ーおいおい、違うの一辺倒か!?どうした、サディストさんよぉ?さっきまでの威勢が嘘みたいだぜ!


精神年齢30歳のおっさんが、一回り以上離れた少女を口撃する。もはや、犯罪者である。


『無意味なんだっ!』


そしてお前も、無意味の一辺倒である。子どもの喧嘩と大差ない。


『違うよぉ…』


『…良いですよ。無理に意見を合わせる必要もないですし。』


ついに、ティアリスの目には涙が浮かび上がる。


ー完全勝利!夢でもこの多幸感は残るよな!

責めるのは得意だが、責められる耐性はなかったみたいだな!!大人げなく、勝利に酔いしれるセティ。最低な男である。



ーどうして?何でそんなに悲しいことを?何で自分を責めるの?辛そうなの?何で、私はセティにここまで拘るんだろう。

そう、思えば異常だった。冒険者なのに、武具すら付けずに迷宮に潜る。その戦い方はどれも、一歩間違えれば自分を死に至らしめる行動。その癖に、ラビラントシャドースライムの時は目の前で誰が傷付くことも許さない、そんな目をしていた。この少年が、何に悩み、どれ程の闇を抱えているかのかは分からない。でも、だからといって放ってなんておけない。きっとこの子はこれからも無茶をする。自分の無力さに絶望しながら。それでも一人で足掻き続ける。そんなこと、絶対にさせない!


『…ん…もん…』


ーんっ?


『違うもんっ!』


女性特有の高音に加え、大声量がセティの耳に響く。


ーうっ、うるせぇ!


『私が、私が証明してあげる。無意味じゃないことを!だからっ!一緒にパーティを組みましょうっ!』


何かを決意したかのような表情のティアリス。その意志は固そうだ。


ーなっ、なんだと〜!!?こいつ、今勝てないと見るや、確実に俺を責めるために自分のフィールドに俺を引きずり込むだと!しかし、それに乗る義理なんざないね。断ろうとした矢先、


『では儂もそれに協力するとしようかの。勿論リックものぉ』


『はいっ』


精悍な顔つきで、当然といった表情頷くリック。


『(あなたの)夢(である冒険者)が無意味だなんて、絶対言わせない!私達の夢(冒険者であることが)でもあるんだから!男の子なんだから、まさか逃げないよね??セティ!!』


その表情は先程まで泣いていたとは思えない、強い決意が見える。


ーやられたっ!似ているならともかく、同じ夢を繰り返し見るなんて、不可能に近い。同じ夢が二度と見れないってことは、一度でも敗北は許されない。そして、ここで逃げれば永遠に負け犬だ。夢に生きがいを求めてきた、俺が夢で負けるなんて耐えられない。永遠に負け犬の屈辱を味わせることが出来ればサディストのこいつにとっては、まさに最良の責め。しかも、自分達の夢でもあるだと!夢の住人が唯一、創造主に反逆出来る手法…!夢であることに驚かなかったことを見ると、こいつは夢だと知っていたんだ!創造主には勝てない、今は勝てないが、いつか勝てるかもしれない。こちらの切り札(夢ということをバラす)を使わせ、勝てる時まで一緒に居るように俺の行動を制限する。こいつは、只のサディストじゃねぇ。


最早清々しい位の、完全なる勘違いである。目の前には三人の冒険者。彼らの表情は、諦めない、やり遂げるといった自信に満ち溢れている。


断れば、負け…。選択肢はない…。くそっ!仕方ない。


『分かりました…。』


苦虫を噛み潰したかのような表情のセティ。ティアリス達からすれば、無力な自分を責めているように見えて仕方がない。


『うん!よろしくねっ!!セティ!!』


満面の笑みを浮かべるティアリス。アーデルとリックも笑っている。


ーマッチョなおっさんと、変態リック、そして、勝つまで粘着するサディストの小娘と行動するとか。悪夢以外の何物でもねえよ。


セティの悪夢は始まったばかりである。

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