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夢の続きをみよう

霧の中を進むと次第に視界が晴れてきた。セティは早歩きで進む。その目には薄っすらと涙が見える。


ー怖くなんかない!怖くなんかない!これは夢!そう夢だ!大丈夫!怖くないんだ!


必死に自分に言い聞かせるセティ。恐怖と闘いながら歩みを進めるその姿は、残念ではあるが確かに勇ましい者である。


ーあと少し。


霧から完全に出る前に、情けない姿を見られたくない。その思いで怖いながらも、歩むスピードをゆっくりする。そして漸く、


目に飛び込んできたのは、夕焼けが辺りを朱に染める光景。街の中なのであろうか、周りには建物が見える。それらは、レンガや石を積み重ねて出来ており、西洋を彷彿とさせる。また、夕焼けが石を優しく照らし、キラキラと反射しており、まるで小さな星々が輝いているようだ。そんな幻想的な光景に目を奪われるセティ。


『遅かったね。セティ。ちょっと心配しちゃった!』


ティアリスが声をかける。普段のセティであれば、ー良い気分に浸っている所を邪魔しやがってーと悪態をつく所であるが、素晴らしい光景のおかげなのか、ティアリスの言葉にも反発しない。


『セティ…?』


不思議に思ったティアリスが、夕焼けの光に淡く照らされ表情が見えにくいセティの顔を良く見ようと一歩前に出る。そして息をのんだ。


ー泣いてる…


セティの目には薄っすらと涙が浮かび上がっている。


ー『どうして泣いてるの?』


簡単な疑問であるが、儚げな顔をしているセティを見ると、その言葉が出てこない。言葉を発したが最後、この少年がいなくなってしまいそうな気がしたから。そして、戸惑っている彼女を見て、アーデルとリックも声をかけようとした際、セティの涙を見る。


暫しの沈黙が辺りを包む。


ーん?


ふと我に帰るセティ。前方には、ティアリス達が神妙な顔でこちらを見ている。


ーしまった!完全にほうけた顔を見られた。まさか、さっきの情けない顔もか!?


焦るセティ。咄嗟に言い訳をしようとするが


『セティは、…どうして冒険者になろうと思ったの?』


優しく透き通った声で問いかけるティアリス。彼女なりに思うことがあるのであろう。アーデルとリックもティアリスに任せるといった感じで見守る。


ーは?何だと、このガキ!そんなにヘタレなのにどうして冒険者になろうと思ったってか!?ふざけやがって!こいつ、人の弱みにつけ込んでいたぶるのが趣味の女と見た。可愛いらしい顔して、真性のサディストじゃねーか。変態リックも去ることながら、真に気をつけるべきはこの女!!


圧倒的なまでの言いがかりである。涙を浮かべていたのは、先程の魔霧が怖かったことが原因であるが、セティが、冒険者であると信じているティアリスはそんなことが原因だとは分かる筈もない。そして、悲劇なことに、ティアリスはその優しさから、セティの天敵として、真性サディストとして位置付けされてしまった。


ー大体、冒険者って何だよ!説明しろよ!ってか冒険者って言い出したのはお前だろーが!

ぐぬぬ、この世界の創造神をここまで馬鹿にするとはっ!もう許さん!


全て被害妄想であるが、ここまで虚仮にされれば、仏のセティももう後には引けない。我慢ならんとばかりに意を決して


『どうして?


…これ(この世界)が


夢(の世界)だから』


そう話すセティは、努めて冷静に見えるが、僅かな時間しか一緒にいなかったものの、彼の人間性を知った(勘違いした)ティアリス達からすれば、苦しみの海の中で、必死にもがき、抗っているそんな印象を受けた。


ー言った!ハハッ!どうだ!貴様らにはこれが一番堪えるだろう。信じていた世界が崩れさる様とくと味わえ!

異世界の夢は惜しいが、ストレスフルな夢など、夢ではない!一回起きて二度寝して、また素晴らしい夢を見るぞ!

ハーハッハッハッ!!


正に最低である。自分の夢(だと思い込んでいる)に対してここまでイチャモンつけるやつもそういない。


ーハーハッハッハッ!震えて声も出んか!サディストとは名ばかりだなぁ!


それは勝手にお前が思っているだけである。


ーハーハッハッハッハッ、は???


ふいに抱き締められるセティ。


『大丈夫。あなたの夢(冒険者として何かを成すこと)は、きっと叶うから』


小さなセティを包むティアリス。柔らかな慈愛に満ちた表情、そして彼女の容姿もあいまってさながら天使のようである。


ー何なの?この女…?怖いんだけど。


今度こそ、割と本気で泣きそうになるセティ。彼の夢は始まったばかりだ。

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