第六話 開戦前 その6
参謀長の言葉に、キンメル大将は苦い思い出を思い出す顔になった。
「まあ、確かに、空母派には恨まれたな。空母派の一人は、私の自宅にまで怒鳴り込んで来たぐらいだからな。まあ、確かに、気持ちは分かる。16インチ砲戦艦の建造を優先するために、航空母艦の健造が後回しになったからな」
航空母艦、略称は「空母」は、洋上で航空機を運用するための「浮かぶ航空基地」である。
現在、米海軍が保有する空母は、「ラングレー」、レキシントン級2隻、「レンジャー」、ヨークタウン級2隻、「ワスプ」の合計7隻である。
ヨークタウン級空母の3番艦、完成すれば「ホーネット」という艦名になるはずだった空母は、戦艦の建造を優先するために建造が中止された。
「キンメル大将、空母1隻の建造が中止になっただけでなく、海軍の航空関連の予算は軒並み削減になりましたからね。空母艦載機の定数の維持にも苦労していますからね」
「確かに、空母派には悪いことをしたと思っている。しかし、航空関連の予算を削減し、それを戦艦建造に回すことができたからこそ。この艦の早期建造が可能になったのだ」
キンメル大将は、そう言うと、艦橋の窓から自分が乗っている艦を感慨深く眺めた。
キンメル大将が乗っている艦は、アイオワ級戦艦の1隻、戦艦「ミズーリ」であった。
「しかし、キンメル大将、我が合衆国海軍が保有する16インチ砲戦艦を全部引き連れて来たかったですね」
「参謀長、仕方あるまい。本土や大西洋側の防備を薄くもできない。それに、コロラド級戦艦は低速で、足手まといになるし、ノースカロライナ級戦艦は防御が対14インチ防御だから防御力に不安がある。サウスダコタ級4隻で、『ヤマト』……、いや、『カメハメハ』1隻に対抗するには充分だよ。それに……」
キンメル大将は自分の椅子を頼もしそうに叩いた。
「この我が合衆国海軍初の30ノット以上の高速戦艦アイオワ級の1隻、『ミズーリ』が実戦参加可能になったんだ。これで、ハワイ近海にある双方の戦艦の数は5対1だ。我が海軍が敗北する可能性は無くなったと言っていいだろう」
「ですが、キンメル大将、アイオワ級戦艦の建造を前倒しするために、次世代空母であるエセックス級空母の起工を遅らせましたし、防空巡洋艦の起工も遅らせました。それどころか、既存の艦船の対空砲や対空機銃の増強まで遅らせました。航空機による攻撃の脅威を訴える連中からは色々と文句が言われていますが?」
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