第四話 開戦前 その4
キンメル大将の言う「裏技」について、山本大将と雪風艦長は話をしていた。
「しかし、山本大将、あんな手段で、我が海軍の戦艦を事実上ハワイに譲渡してしまうとは、初めて聞いた時は驚きました」
「ああ、我が国とハワイ王国との間だからこそ、できる方法だな」
ハワイ王国海上近衛隊は、法律の制約により駆逐艦以上の艦船は保有できない。
魚雷の保有も禁止されているため、駆逐艦では常識の魚雷発射管を装備することもできない。
そのため、ハワイ海上近衛隊では、駆逐艦を警備船と呼称している。
日本から戦艦「大和」をハワイ王国に譲渡するには、次のような方法が取られた。
まず、「大和」を日本の天皇が皇室財産として個人的に購入したのだ。
そして、「大和」を個人的な贈り物としてハワイ国王に譲渡した。
ハワイ国王は、個人財産である「大和」を「カメハメハ」と改名し、超大型警備船として運用を海上近衛隊に任せている。
ハワイ王国議会の米系議員は「戦艦を海上近衛隊が保有するのは憲法違反だ!」と非難したが、海上近衛隊は「『カメハメハ』を保有しているのは国王陛下であり、海上近衛隊は保有はしておらず、その運用を国王陛下より委任されているだけである」と主張して押し切った。
もちろん、戦艦一隻分の代金を天皇が個人的に支払うのは実際には不可能なので、「大和」を天皇が購入した代金は後払いにしてあり、数年後には、「カメハメハ」をハワイ国王が日本海軍に売却、その代金を天皇に譲渡するという形で相殺されるよう帳簿上処理がされるようになっている。
「しかし、山本大将、数年で、『大和』が日本に返還されることになっても大丈夫なのでしょうか?今回のことが上手く行ったとしても、ハワイ王国が米国に併合される危機は無くならないと思うのですが?」
「ハワイ議会に政治工作をしていて、数年以内に航空近衛隊に、航空魚雷を搭載した攻撃機を配備できるようにする予定だ。そうなれば、ハワイ諸島は『不沈空母』となるから戦艦は不要になる」
「しかし、キンメル提督、日本海軍が18インチ砲を搭載した戦艦を建造していると知った時には驚きました」
キンメル大将と参謀長が話をしていた。
「それは、私も驚いた。そのニュースが一般に流れた時には、『我が合衆国も18インチ砲戦艦を建造すべきだ』という議論が海軍内部や議員たちだけでなく、一般市民の間でも盛んになったからな」
「しかし、結局は、18インチ砲戦艦の建造は、我が合衆国海軍の正式な計画になりませんでしたね」
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