第二話 開戦前 その2
ハズバンド・E・キンメル大将は、艦橋で参謀長からの報告を受けていた。
「キンメル大将、本艦隊は予定通りの時間に、ハワイ近海に到着する見込みです」
「日本側の動きは?」
キンメル大将の質問に、参謀長が答えた。
「戦艦一隻と駆逐艦一隻で編成された艦隊が、ハワイ近海に到達している模様です」
「戦艦は、日本海軍の新型戦艦『ヤマト』に間違いないんだな?」
「はい、ですが、『ヤマト』は、すでに、ハワイ王国海軍に引き渡されていて、戦艦『カメハメハ』となっております」
「参謀長、報告は正確にしたまえ。ハワイ王国に海軍は無いし、戦艦の保有も禁止されている。海上近衛隊に超大型警備船だ」
「はっ!失礼しました!」
キンメル大将は苦笑した。
「まあ、言葉遊びだと分かっているが、ハワイ王国に軍隊が無いのは、我が国が深く関わっているからな」
ハワイ王国の現況の原因は、19世紀末までさかのぼる。
当時、アメリカ合衆国政府は、ハワイ王国を合衆国に併合する計画を進めていた。
建国時、北米大陸東部13州で始まった米国は、北米大陸を西へ西へと開拓して行き、遂に西海岸に到達した。
北米大陸に未開拓の土地、「フロンティア」は消滅したのだった。
米国は新たなフロンティアを太平洋に求めた。
太平洋を制するに重要な拠点であるハワイ王国を手に入れようとしたのだ。
しかし、単に武力で併合したのでは、他の列強諸国に反発されるので、搦め手で行くことにした。
まず、米本土から大量の移民をハワイに送り込んだ。
計画では、その米系ハワイ人たちが革命を起こして、ハワイ王室を排除、米系ハワイ人が政権を握るハワイ共和国となり、米国と同盟を組み、最終的には米国への併合をハワイ政府が自主的に申し出る予定であった。
裏で米政府が糸を引いているのは明らかであったが、列強諸国は植民地に対して似たようなことをしているので、この方法なら反発は少ないはずであった。
それに、待ったをかけたのが、アジアの新興国である日本帝国であった。
日本もハワイに大量の移民を送り込んだ。
しかも、日本の皇族とハワイの王族の人間が結婚して、姻戚関係を結んだのだ。
王室同士で姻戚関係を結ぶという、民主主義国である米国では絶対できない手段で、日本とハワイは関係を強化したのだった。
米国と日本では、米国の方が遥かに国力は上だが、これでは当初の計画を実行するのは困難になった。
それで、米国は他の手段を取ることにした。
ハワイ王国軍は、日本の援助で強化されようとしていた。
それを防ぐため、立憲君主制国家であるハワイ王国議会の米系議員は、憲法に「戦争放棄」の条文を追加することを提案したのだった。
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