第十八話 砲撃戦
軍艦が砲撃戦を行う時の理論として「海の軍艦と陸の要塞砲とが砲撃戦をしたら軍艦の方が不利」というのがある。
なぜなら、海に浮かび常に揺れている軍艦とは違い不動の大地にある要塞砲の方が安定しているので射撃には有利だからだ。
それに、海に浮かぶ軍艦は浸水して沈没する危険があるが、陸の要塞砲には、それが無い。
キンメル大将は海軍軍人ならば当たり前の知識を思い出していた。
それを現状に当てはめてみた。
「そうか、そうだったのか!あれは『未完成のドッグ』などでは無い!『要塞』だったのだ!」
「どういうことなのですか?キンメル大将」
「参謀長、ハワイでは米系議員により、沿岸要塞の建築を禁止していたが、『民間のドッグ』に偽装することで、要塞を建築していたのだ」
「しかし、民間のドッグに偽装したとしても、砲を設置すれば要塞だとすぐばれるのでは……、あっ!そうだったのですね!」
「そうだ!参謀長、戦時には中に戦艦が入って『要塞砲』になるのだ!」
参謀長は艦の周囲を覆う水柱を見ながら困惑した顔になった。
「しかし、何故、敵の射撃精度はこんなに高いのでしょう?」
「陸のあちこちに、こちらを観測するための施設があって、射撃に必要なデータを『カメハメハ』に送っているのだろう」
「ならば、どうしますか?陸にいる『カメハメハ』は沈みません。完全に破壊するしかありませんが?」
「このまま砲撃を続ける!数の力で押し切るしか無い!」
「ミズーリ」を旗艦とする米戦艦5隻と「カメハメハ」1隻の砲撃戦は続いた。
何度か、砲火を交わした後、「ミズーリ」は主砲塔を全損、戦艦としての砲撃力を失った。
沈没寸前になった「ミズーリ」をキンメル大将は陸に乗り上げさせ、健在だった通信機能を使って残った4隻の戦艦を指揮を執り続けた。
ここに、お互いの指揮官が陸の上の軍艦にいるという海戦史上、おそらく最初で最後の事態が発生した。
米戦艦4隻も要塞にいる「カメハメハ」に致命傷を与えることはできず。
4隻とも大破した時点で、キンメル大将は全艦隊に撤退を命令、米艦隊は陸の上にあり動けない「ミズーリ」を残してハワイ近海から撤退した。
そして、キンメル大将と山本五十六大将の間に砲火を交わさない最後の戦いが始まった。
「初めまして、アメリカ合衆国海軍大将ハズバンド・E・キンメルです」
「こちらこそ初めまして、日本帝国海軍大将山本五十六です」
二人は無線機を通して、初めて言葉を交わした。
次話で最終話を予定しています。
続けて新作架空戦記を投稿する予定です。