第十七話 突入 その3
「『カメハメハ』が故障をして修理のためでは?」
「いや、修理のためなら未完成のドッグになどいないだろう。真珠湾の基地に立派なドッグがある」
幕僚たちが議論したが、結論はなかなか出なかった。
幕僚たちの議論を聞きながらキンメル大将はまとまった自身の考えを口に出した。
「何故、未完成の民間のドッグに『カメハメハ』がいるのか?……、いや、その理由を今考える必要はあるまい。戦後にゆっくりと調べれば済むことだ。それより、今はチャンスと考えるべきだ。戦艦同士の砲撃戦は言わばヘビー級ボクサーの殴り合いだ。相手は両足を縛って動けないでいるのに、こちらは自由に動けて、しかも、5対1だ。こちらが16インチ砲、あちらが18インチで、あちらの方がパンチ一発の威力は大きいが、手数はこちらの方が多い。確実に勝てる!『カメハメハ』に向けて突入する!」
「山本大将、米海軍戦艦5隻が『カメハメハ』の主砲の射程距離内に入りました」
「まだだ、まだ撃つな。参謀長」
「分かっております。最大射程距離の砲撃なんて滅多に当たるものではありませんから」
「キンメル大将、全艦、砲撃準備が完了しました!」
「よし!全戦艦、砲撃始め!」
キンメル大将の命令で、戦艦「ミズーリ」ら5隻の戦艦から放たれた砲弾が、ドッグの中にいる「カメハメハ」に向かった。
しかし、全弾丸が「カメハメハ」には当たらず、周りの地面に当たり、土煙を上げただけであった。
全弾が当たらずともキンメル大将は失望しなかった。
なぜならば、よほどの近距離でなければ、砲撃で初弾命中というのは、ほんとんど有り得ないのが常識だからである。
「『カメハメハ』!発砲!」
見張員の報告を聞きながらキンメル大将は考えた。
(『カメハメハ』は砲撃能力に問題は無いようだな。では、何故、未完成のドッグにいるのだ?いや、自分が言ったように、戦後ゆっくりと調べれば……)
「カメハメハ」の砲弾が海面に上げた水柱を見て、キンメル大将は驚いた。
なぜなら、「カメハメハ」の放った砲弾はすべてが、キンメル大将が乗る戦艦「ミズーリ」を包み込むように海面に着弾したからである。
戦艦「ミズーリ」に直接着弾したのは一発も無かったが、これは「カメハメハ」の照準が基本的に正しいことを意味する。
「馬鹿な!初弾で、この射撃精度だと!?」
「カメハメハ」の艦橋では、山本大将が初弾の射撃成績に満足したように笑みを浮かべていた。
「この『カメハメハ要塞』を民間のドックに偽装して、建設した甲斐があった」
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