第十四話 反撃 その2
キンメル大将は、味方の空母部隊が、損傷した状況についての詳細な続報を受けていた。
それによると、敵の戦闘機部隊により、空中哨戒をしていた味方の戦闘機部隊はすべて撃破された。
敵の戦闘機部隊は、米海軍が「ゼロ・ファイター」と呼ぶ、20ミリ機関砲を装備した日本海軍製の戦闘機であった。
ゼロ・ファイターは優れた格闘性能で、米海軍のF4Fワイルドキャット戦闘機を圧倒し、空母部隊上空の制空権はたちまちハワイ側に確保された。
制空権がハワイ側のモノになると、新たな奇妙なゼロ・ファイターの編隊が来襲した。
新たなゼロ・ファイターは、F4Fを撃滅した機体と比べると、動きが少し鈍重だった。
そして、爆弾も魚雷も機体外部には搭載していないのは明らかなのに、何故か米空母部隊に向かって来るのだ。
不思議に思いながらも、空母と護衛の艦艇は対空砲火を敵機に浴びせた。
敵機は普通のゼロ・ファイターよりは鈍重ではあったが、爆撃機や雷撃機よりは敏捷に動き、撃墜できたのは少数で、大多数の機体は、米空母部隊への攻撃に成功した。
奇妙なゼロ・ファイターの攻撃方法は、爆弾でも魚雷でも無く、37ミリ機関砲によるものであった。
「キンメル大将、『ゼロ・サポート・ファイター』の37ミリ機関砲による銃撃で、我が軍の空母4隻すべての飛行甲板が穴だらけになってしまい。発着艦が不可能になりました」
「そうか、通信参謀、状況は理解した」
キンメル大将は、味方空母四隻が被害を受けたとの第一報を伝えられた時は興奮していたが、今は、他者の目から見ると冷静になっていた。
「キンメル大将、申し訳ありません!」
キンメル大将が声がする方に振り返ると、航空参謀が頭を深く下げていた。
「『ゼロ・サポート・ファイター』の存在は、戦前から分かっておりました。それが37ミリ機関砲を装備していることもです。しかし、それは『対爆撃機用』と考えておりました。まさか『対艦攻撃』に使用するとは……」
「航空参謀、謝罪の必要は無い。日本・ハワイ側が禁止事項の隙間を突いたのだ。逆に分かったことがある。ハワイには秘密裏に航空爆弾や航空魚雷は持ち込まれていないということだ。あれば既に使っているだろうからな。37ミリ機関砲では戦艦はビクともせんよ。航空参謀、戦いは、まだ、これからだ。気に病む必要は無い」
「はい、ありがとうございます。キンメル大将」
キンメル大将は表向き冷静だったが、内心では、空母四隻が損傷した腹立ちと、自分の主張が実戦で認められた喜びが、混淆していた。
(航空機の銃撃だけで、発着艦が不能になる空母が海戦の主役になるなど、やはり、あり得ない!大艦巨砲主義こそが、我がアメリカ合衆国海軍の歩むべき、正しい道なのだ!)
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