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3 のぞきみ少女とまちかねマスター

 少女は屋根裏部屋に潜んでいた。


――マスターは料理対決って言ってたけど。


 昨夜マスターに頼まれた仕入れを終えて、お店に届けた後、こっそりと裏口から忍び込んで、それからどれくらい時間が経っただろうか。少女は物音を立てないよう腹這いになって、カウンターの内側、ちょうどマスターが作業する手元が見える位置にある床板の節穴から階下の様子を伺っていた。


――なに作ってるんだろう。


 頼まれた食材、そして節穴から漂う甘い匂いからすると、お菓子でも作っているらしい。もう、料理対決は始まっているのだろうか。しかし、会話らしい会話もなく、そもそも誰も迎え入れた様子がないのが不思議だった。


――入れ違い、だったのかな? それか、料理だけ後で持ち寄るのかも。


 少女の仕事はウェイトレスだが、将来は自分の店を持つという目標がある。休日に行われる新メニュー開発はマスターが腕を振るうのを間近で眺められる絶好の機会であり、必ず手伝いを買って出ることにしている。ましてや、今日は料理対決だというのだ。本気のマスターが見られる無二のチャンスだと意気込んで、鞄の中にはお腹が空いたときのためにパンまで用意してあった。


――けど、ううん……よく見えないな。


 小さな節穴から見えるのはカウンター内の一部でしかない。オーブンで何かを焼いている気配は伝わってくるのだが、そちらまでは見えないのだ。朝が早かったこともあって、次第に眠たくなってくる。


「ようこそ、いらっしゃいました」


 マスターの声、そして、からんからん、というドアベルの音で少女は目覚めた。床板に垂れたよだれをすすり上げながら、階下の気配に注意を向ける。


「やあ、久しぶりだね」

「ご壮健のようで、何よりです」


 声の調子、ステッキを突く音、そして敬意のこもったマスターの口調からすると、客人はずいぶん老いているらしい。おそらくはハットをかけるためだろう、コート掛けのある壁のあたりに寄ってから、カウンターのスツールに座ったようだ。


「やあ、今年もお邪魔させてもらったよ」

「いえ、お待ちしておりました」


 すると、この老人が料理対決の相手なのだろうか。


「ふむ、準備は整っているのかね?」

「はい、最後に一声かければ、すぐにでも」

「ほほう?」


 そして次の言葉に、少女は大いに度肝を抜かれることとなる。


「アイリン! いつまでも隠れていないで降りてきなさい!」


 少女は思わず身をすくませ、その拍子にがたんと音を立ててしまう。


「ほほう。きみの弟子かね?」

「ええ。不肖の弟子です」

「はっはは、きみの口からそのような言葉を聞くことになろうとは」

「師匠……からかうのはよして下さい」


 料理対決の相手である客人の正体。

 それはどうやら、マスターの師匠であるらしかった。

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