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博士科は銀色の奇跡



 はなぶさヒーロー専門学校の本校から、山道を歩いて十分ほどのところに、分校となる別校舎が建っている。

 本校よりも一回り小さい建物の中では、本校の生徒よりも一回り小さい生徒たちが白衣に身を包み勉学に励んでいる。

 ここには将来、戦隊の博士になることを目標とした生徒たちが集まっていた。



…………



「元々は本校に博士科がありましたが、去年この棟が完成して移されました」


 引率の教授は現役の戦隊博士だった。外見は町医者といった感じで、若い頃に付き過ぎていた肉が落ちてきた感じの初老男だった。

 博士は身につけている白衣を広げて見て、付いている屑を掃った。

 博士は言った。


「博士科の生徒は皆、この格好です」

「私服も白衣なんですか?」


 生徒Aが質問した。


「はい、そうです」


 博士は言った。「この仕事は基本的に、所謂私服というものが無い物と思って下さい。皆さんもそうです。人に見られる場所では常にヒーローらしい格好が望まれます」


 生徒たちは基本的な、しかも見落としていた新事実を聞かされた。

 好きな服が着られないというのは、特に女子たちにとってはショックな規律だった。


「イメージ商売ですから」


 教授は言い、新棟に入って言った。

 イメージ商売……。



 白井大海原は建物の中に入ってしばらく、どことなく懐かしい感覚に浸っていた。

 向こうから近藤の「歯医者みたいなにおいね」という声が聞こえてきて、それだと思い出した。

 しかし暫くすると、においが薄くなったのか慣れたのかで気にならなくなった。うっすらと抱えていた緊張感も消えた。


「先ず地下から見て行きましょうか」


 博士は淡々とこなすように生徒たちを案内した。

 地下に通じる階段は、廊下の突き当たり、建物の隅にあった。

 階段の横に据えられたエレベーターには、本校と同じように『教職員専用』という張り紙がされていた。

 丁度扉が開いて、白衣姿の若者が数人降りてきた。教職員には見えないが。

 挨拶をするようなことも無く、一瞥して、彼らは去って行った。

 ヒーロー科の生徒たちは静かに階段を下りて行った。


 地下は必要以上に明るい空間だった。

 何か特別な照明を使っているらしく、何も見逃すまいという設計者の意気込みが伝わってきた。

 男子生徒は周囲を興味深く観察したが、女子生徒は眩しくていやだわという風に歩いていた。

 何も無い部屋に入り、そこで強風を浴びて衣服の埃を落とすと、一見して武器庫のような場所に通された。


「武器庫です」


 博士が言った。

 しかしながら武器らしい武器は見当たらず、ガラクタに見える部品類が机に並んでいたり、書類や素材が重なっていたり、冷たいコンピューターや機械類が並んでいたりするだけだった。


「奥には完成品がしまわれていますが、ここにあるのは開発段階の物です。ええと……こちらが、去年の卒業生徒の課題ですね」


 博士が示した方を見ると、ショーケースの中にオモチャが並んでいるのが見えた。

 しかしそれはオモチャではなかった。

 博士は言った。


「博士科では、卒業の課題として武器の製造を義務付けています。そして、その中でも優秀なものはこうして飾られ、出来によっては実用化されることもあります。例えば、去年の金賞は実用化されましたね。この、『バンダナ風爆弾』っていう兵器ですけど」


 ショーケースにはカラフルなバンダナが飾られていた。これが爆発するらしい。

 バンダナ風爆弾には金賞という札が掛けられていたが、爆弾を自分の頭に巻くと考えたら恐ろしくて仕方なかった。

 他の物も見て回った。

 銀賞は、『水筒ヌンチャク』

 銅賞は、『死ぬほど酸っぱい飴』 だった。


「まあ、去年はそんなにアレでしたけどね……」

 


 武器庫という名の工作室を出た後に、死ぬほど退屈な授業見学をした。それが終わると、廊下と階段を経て経て校舎の対角まで歩き、無機質な四角い部屋に通された。

 そこは卒業しても尚研究を続ける生徒のために設けられた研究室。

 一般の大学で言えば、大学院のような場所だった。


「ここではより実践的な、機器や薬品などが研究開発されています」


 その空間には、他には無い緊張感があった。

 窓が無く、換気扇の静かな音が常に耳に入った。

 隣の部屋は立ち入り禁止の研究室で、頑丈そうなドアと窓で仕切られている。

 そちらを見ると動く影があって、誰かが作業しているようだが、こちらからでは見えなかった。


「スーツやバズーカ、ロボットの設計なんかもしたりします。先ほどの研究室よりも、更に危険度の高い物が取り扱われますね。成果は業界に還元されます」

「こういうところで開発するのなら、戦隊に専属している博士は普段何をしているんですか?」 生徒Bが質問した。


「戦隊の博士は、一般企業で言う店長のような立場です。その戦隊に適切な商品を仕入れて、手入れや管理をしています」

「ありがとうございます」


 なるほど、案外地味で大変そうな仕事だな。と、白井は思った。

 その時……。


――ピポピポピポ……


 近くから、耳に付く機械音がした。

 見ると、隣の部屋から浮遊する銀色のボールがピポピポ言いながら現れた。

 生徒たちは、急なその未来感の登場に度肝を抜かれた。

 しかも驚いたことに、ボールは喋った。


「アラー。ヒトガイッパイイルピポー。カシコソウナ、セイトサンタチぺポー!」


 良く見ると、ボールにはアニメチックな目と口がくっ付けられている。

 こんな、アニメのような物が本当に存在するのか……。信じられないが、確かにそこに浮かんでいた。


「ピポー。コンニチハピポー」


 生徒たちはモゴモゴと、数人が返事をした。

 白井は呆気に取られていた。目の前で起きていることが、現実だと受け入れられなかった。


「こいつは、魔法少女などのサポート型ロボットです」


 博士は浮遊するロボットに近付いて、満足そうに観察した。


「今後、毛皮を被せたり装飾を施したりして、子供受けの良い外見にしていきます」

「ハヤク、カワイクナリタイぺポー!」

「かっ……可愛い!」


 棒立ち状態の生徒の中、ジムモリちゃんがロボットに歩み寄った。

 彼女は学園一のぶりっ子として知られている。

 彼女は、年齢的には厳しいが魔法少女型ヒロインを目指していて、多少肉付きがよく、顔がジム・モリスンに似ていた。外見的にも魔法少女は厳しかった。

 ジムモリちゃんは、「おいでおいで」だの「よーちよち」だのと言いながら、ロボットの顔らしきところを、両手で包むように触れた。


「アチッ!!」


 ジムモリちゃんは飛びのき、両手を激しく振った。顔からは血の気が引いていた。


「あ、モーターが熱を持っているのでかなり熱いです。気をつけてくださいね」

「キヲツケルンダピポー」


『モーター』 という単語で急に可愛いキャラクターのイメージが薄れた浮遊ロボットに、生徒全員が引いていた。

 白井も、そのロボットを空恐ろしく感じ始めていた。


「博士」


 静まった教室の中、相撲久遠座魚太すもうくおんざうおたが後ろのほうで手を上げた。


「はい」

「このロボット、どうやって会話してるんですか? 人工知能ですか?」

「ああ、いや、これは私の妻です」

「妻……?」


 博士が隣部屋の方を見たので、みんなそっちを見た。

 隣の研究室の窓から、マイクを持ったおばさんが、こちらに手を振っているのが見えた。


「あれが私の妻です」

「ハカセ、アイシテルペポー」


 おばさんが喋ると、ロボットも喋った。

 博士は顔を赤らた。


 ジムモリちゃんは鬼のような顔で、博士とおばさんを交互に睨み付けていた。





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