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  一

目標は完結(不定期更新必須)。

ともかく頑張ります。

 そのお屋敷は四方を庭に囲まれておりました。

 それはそれは大きな庭で色とりどりの花が咲き乱れています。

 お屋敷があるサラエ国は、様々な不思議の力を持つ人が生まれる国でした。力の大きさは人によって違いがあり、全く表に出ない人が殆んどで、顕著に現れる人は稀でした。

 お屋敷の主人ヨークスは稀な人の一人。

 先見さきみという未来を夢にみる力を持ち、国王の側近として仕えています。

 庭園の花々を育むのはヨークスの妻ルシファ。ルシファは聡明で慈愛に満ちた方でした。

 庭園には咲き誇る花々を愛でたいと、町の人々がひっきりなしに訪れます。時に疲れた旅人が立ち寄ることもあります。ルシファは時間が許す限り人々を笑顔で迎えておりました。子どもたちには集いの場を、旅人には癒しをと。


 そんなお二人にはこの世で一番大切な愛する娘がおりました。名前をルシェといいます。

 ルシェは腰まで流れる薄桃色に輝くおぐしと、雪のように白い肌がご自慢で、庭園の半分を埋め尽くす黄色い陽菜ひなの花が大好きな少女でした。

 ヨークスはルシェが生まれた時、フルルという少年を側付きに選びました。フルルが調度十歳になったばかりのことです。


 幼い頃から、フルルは両親と一緒にヨークスのお屋敷によく来ていました。が、七歳になるかならないかという時、二親が流行り病で亡くなったのです。それ以降フルルはお屋敷で暮らしていたのです。

 ヨークスとルシファは、孤児になったフルルを放っておけなかったのでしょう。

 ですが、我が子同然に扱うことはしませんでした。しかし、決してないがしろにもしなかったのです。

 フルルの両親の弔いが済んでしばらくすると、ヨークスは幼いフルルにも可能な役目を与え、屋敷で暮らすことが出来るようにしました。

 フルルには兄妹がなくただ一人の血縁である叔父が、他の地へ旅立つことになったためです。叔父と一緒に旅をするにはフルルは幼すぎたのでした。


 ルシファは幼いフルルの甘えを少しだけ受け止めながらも、フルルが与えられた役目の手ほどきと、屋敷で暮らすために必要な理を教えていきました。

 フルルはヨークスとルシファに対し、両親とは違った距離感を保ちながらも、敬意と恩義を感じながら、純朴さを失わない子に育っていったのです。

 お屋敷の生活にも慣れ、同じ年頃の他の子より聡くなったフルルの役割は、簡単な手間仕事から、屋敷に集まる子供たちの世話が主になっていきました。

 十歳になったフルルはお屋敷に集まる子供たちから慕われ、子供たちのちょっとしたいさかいをいさめること。小さな子のお守などが出来るようになっていたのです。


 ルシェの側付きになった時、フルルはそれが今までで一番重要な役割だと、感覚的に理解したのでしょう。ルシファの腕の中でルシェがすやすやと安らかな寝息をたてている時でさえ、目が届く場所から離れませんでした。



 ルシェが七歳、フルルが十七歳になった時のこと。

 サラエ国は、とある国から一方的な攻撃を受ける一歩手前にありました。

 ヨークスは先見の力でそれを知り、戦いを避ける策を練るため、長い間お城から屋敷へ帰って来ませんでした。そして、ルシファはその一月ほど前から、病に臥せっていたのです。


 お父様がいずれお戻りになり、お母様もやがて元気になられることはルシェにも伝わっていました。

 ですが、今、抱きしめてくれる温もりがないことが、幼いルシェにはとても悲しく淋しいことでした。

 お屋敷で拗ねたように過ごす長い時間、淋しさでいっぱいのルシェの傍らには、いつもフルルが居りました。

「お嬢様がお辛い時、悲しまれる時、わたくしはお譲様が一番お好きな陽菜のお花をお届けいたします。お嬢様には陽菜の花と同じ、陽ざしに向かう笑顔が一番お似合いなのですから」

 フルルは毎日陽菜の花をルシェに届け澄んだ声で唄を口ずさみました。

 不思議なことにフルルが唄うと、たくさんの小鳥がルシェの肩や手に集まってさえずります。そしてフルルと一緒の間、ルシェの淋しさはいつの間にか消えていくのでした。



 それから十年。

 サラエ国は世界で一番小さな国でしたが、争いに巻き込まれることもなく、いつも平和な国と隣国ナーラで評判になりました。

 ナーラ国は世界で一番大きい国でしたが、お日さまに嫌われたかのように土地が寒冷で農作物が育ちません。

 唯一誇れるのは大きな茶色の山土をこねて焼き上げた工芸細工でした。

 特殊な技法が山土を多彩に染めあげ、時には輝きさえ放つ器や置物、装飾品が生み出されておりました。

 それがナーラの命綱。

 工芸品は他国で取れた作物と交換されます。

 しかしナーラ国王は法外な量の作物を求めるため、横暴な王として多くの国からうとまれていたのです。


 一方で鮮やかな色彩を生み出す職人は、宝物のような人材として優遇されていたのでした。

 その技術、技法は限られた職人だけに受け継がれ、城内の作業所で厳重に管理されておりました。

 美しい器や装飾品は特有の色彩を放ち、ナーラ国以外では作り出せないのでした。

 職人は技術を洩らさないよう、そして常に技を磨きより美しいものを創るよう求められていたのです。

 そのせいなのかどうか、職人たちは気性が短くいつも諍いが絶えず、王城には様々な苦情が持ち込まれておりました。


 その応対をするのが国王の一粒種、アーツ皇子です。


 アーツは金色の髪、薄茶の瞳を持ち、姿もお顔も凛々しくて、お優しいお方と多くの娘が憧れる皇子でした。 ですが二十二歳のアーツはどの娘にも目を向けません。

 なぜならその日々は殺伐としたものだったからです。

 アーツ皇子はいつも苦痛の皺を深め、ため息を飲み砕き、工人の揉め事の仲裁や解決を淡々とこなしておりました。

 父王は他国との外交で手一杯。城内の出来事まで気にかける余裕などないというのです。

 母である王妃はとうの昔に亡くなられ、皇子は側近長と侍女長が両親かのように育ち、ナーラ国王とはたまに夕食を共にするだけでした。


 そんなめったにない父子の静かな夕食時のことです。

「アーツよ、隣国サラエにルシェという美しい娘がおるそうじゃ」

 国王はそう皇子にきりだしたのです。

 二十歳ともなればすでに妻を迎え世継ぎの子がいても早くはなかったのです。

 ナーラ国王はアーツの気に添う皇妃探しを国外へと広げていたのでした。

 そして、ルシェを皇妃に迎えればその父親が持つ先見の力を手に入れられると思ったのでしょうか。


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