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一年C組、本職魔王!?

「これいらないからきみにやるぅっ」

 彼女がそう言って、床に落ちていた魔剣、炎の形をしたそれをからんと拾い、僕に手渡してくれたのだ。

「え。ありがとう? と言うべきなのかな、これ。正直、もらってもうれしくないし、超迷惑なんだけど。使い道ないし置き場所もないから」

 そう言いながら僕は、その刀身を上にし両腕で柄を持って揺らめかせ、怜悧な刃に視線を這わせる。

「ふん。あの神獣が持つ剣は、普通とちょっと違うんだぞ」

 彼女が横から言ってくる。

「違うって?」

 鈍い光を放つ魔剣を眺め続けていたら。

 ゆらゆらゆらゆらぁ……なんだこれ?

 剣が炎をみたいに揺らめき出していたのだ。

 金属質にしか見えない刀身が、明確な形を持たぬ火のごとくにその輪郭を乱れさせて。

 でも、そばで見ている僕には、熱さがこれっぽっちも伝わってこない。外観は火なのに熱を帯びていない。

 その揺れが段々激しくなっていき……。

 挙げ句、それは金属にさえ見えない黒光りする炎そのものと化し、てらてらてらてらてらぁ。

「それが炎龍(エンロン)だ。白虎が持つ魔剣・炎龍(エンロン)は、それ自体が炎に似た性質を持つ。『侵略すること火のごとし、知りがたきこと陰のごとし』戦いの場においては敵を一断する剛金となるが、平時には揺らめく炎となる」

 彼女がそう言うそばから、炎がその揺らぎを少しずつ小幅にしていき、全体サイズも小さくなっていき。

「あれれ!? 縮んでる」

「もっと縮んでいくわ。そして最終的には」 

 彼女がそう言ったほぼ直後に、さらに一回りその形を小さくしていった炎の刀身が。

「「消えた……!!」」

 柄の上から跡形もなく。

 自ら鎮火でもしたように、空気中にすっと紛れていくように。

 刀身がなくなり柄だけになってしまったそれを、ぷらぷらと振ってみた。

 しかし、もう一度炎の刀身が現れることはなく、他に何か変化があるわけでもなく。ただのオブジェになっていたのだ。

「それら、きみも持ち運びに困らないだろ?」

「困らないけど、持ち運ぶ必要もないし」

 半ばふてくされて言う僕に、彼女は

「今はそうだろうけど」「今は?」

 なんか引っかかること言い出して。

「そうだ。いずれきみは必要になるから、しっかり携帯しとくんだ」

 いずれ? いかなる事態に備えてこんなものを?

「……」その辺の説明は何もなく。

「なんだか分からないけど、捨てるのもあれだし?(もぞもぞ)」

 剣の柄をズボンのポケットに入れようとしたら、入り切らなかった。柄が、半分以上ポケット外にはみ出してしまい。

 仕方ない。こうしよう。

 侍のごとく、いや、小学生同然に、ベルトとズボンの間に差し込んでみた……ら、うわ、ぴったし!! 超かっこ……悪いが……箒じゃないだけまだマシ? 今鞄持ってないから応急処置としては?

「そうだ。じきにきみは三千世界を股にかける異能バトラーになるんだからな」

 と、彼女が口を開いてくれたのはいいものの、三千世界……異能バトラー……何その聞き覚えある用語(ターム)たちって……? あの厨二予言者とかぶってるぞ。

 これって偶然の一致なのか!?

 意味深なこと言うやつだ。軽く人の未来予測して。

 何か見過ごせないとこだけど、この少女って他にも気になることがあって。

 この剣の性質を知っているのは、なぜ?

 壮絶にバトル好きで、獰猛に食欲旺盛ってことは先刻承知だ。

 そういう彼女の特性自体謎だったが、さらに人知を超えているというか博識というか? 人外クラスの知識までお持ちのようで。

 後で正体明かしてくれるって話だったから、ここではツッコまないけど。

「きみもあたしの強さが分かっただろ。何せ、今日は勝負下着だったから、魔物もいちころだったな」

「あの紫の編み網みが~っ。勝負下着ってそういう意味だったのか!?」

 違うだろっ。と脳内ツッコミを入れる僕の前で、少女は両手を組んで上げ、うううんと伸びをしながら。

 ……わわわ。豊かな双乳が上に伸びて、まろやかな曲線を作ってるよ。

 見てない見てない。僕は何も見てない。

 そんなお餅よりもふにゅうと膨らんだ素敵なものが伸びるとこなんて。

「でも、メインディッシュはあくまでもきみだからね。今のやつは前菜(アペタイザー)ってことで♪」

 両手を降ろし胸の下で組んで、彼女がそう言った。

 床に座ったままの僕に、花が咲くような笑みを浮かべつつ。

 いろいろと理性的でいるのが難しい僕だったが、努めて冷静に主張した。

「なんだよ、メインディッシュって。勝手に人を食物認定しないでくれ。きみはもう、前菜(アペタイザー)食いすぎたから、これ以上食わなくていい。てか食うな。僕は、竹下佑二って普通の高校生であって、食べてもどうせまずいから。あと、この期に及んで指摘するのもどうかと思うが、ここって男子トイレだぞ」

 熱っぽく語り出したこっちを、少女は突き放すように。

「だからどうしたのぉ?」

 こ、コミュニケーション取りにくいやつ。

「いや。別にどうもしないけど、僕は食糧(エサ)じゃないし、一般に女子は男子トイレに入らないから」

「なんかうざいこと言うやつぅ!!」

ここで口論しても埒が明かなそうなので、話題を変える。

「さっきも聞いたけど、改めて聞くぞ。いつまで経っても、きみが話してくれないからこっちから。きみって何者なんだ? 今のバトルから只者じゃないってことは明明白白だけど、倒した相手を呑み込むとか人間じゃないよな?」

 初対面の時から言い続けてきたように、この少女って一見超可愛い。

 くっきりした目鼻立ちといい、豊かな表情といい、胸が大きいところといい。一つも隙がない美少女振りで。

 けど、その本性が丸っきり逆。

 凶悪、凶暴、変態、強欲。ってことは、今如実に判明したわけで。

 ……なんで、こいつってこうなんだ?

 一寸怖いから、その理由を知りたいとはさほど思っていなかったが、数十分前に彼女と廊下で遭遇して以来、僕の周囲が極端にざわめき出したのも事実で。そのことに疑いはなく、その正体を知りたいって気持ちも、心の中でやむなく膨れていて。

 そんな風に脳内呟きする僕の前で、彼女はしれっとこう言った。

「うざいユウくん。正体を教えてあげるわ。あたしは、私立土瑠素(どるす)学園一年C組、柏葉樹乃生(じゅのう)乙女座AB型。十五歳だから高校に通ってるけど、本職は魔王なんだよ♥」

「乙女座AB型の本職魔王だって!?」

 僕は床から立ち上がり、頓狂な声を上げていた。


 てか、なんだよユウくんって。

 その馴れ馴れしい呼び方。

 しかも一年C組って。クラス一緒だし。

 予言者とか魔王とか、なんなんだよ、学園(ここ)

 事前に一つの段取りもなくそんなのばっか現れて。

 いや、でも、あの変な予言者に比べたら、この少女が魔王なのはまんまって感じだから、それはそれで 受け入れられそうな気もしないでもないけど……って、なんか僕までおかしくなってきてないか?


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