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勝負あり!! そして食われる白虎

 こぉぉぉぉぉぉ!!

 黄金のオーラをまとう白虎が、魔剣を振り上げた。

 一端、頭上でそれを止め、「ふしゅるるぅ」と息を吐き出した。


 じじじじじ。

 その時、天井の監視カメラからまた機械音がして、その首を左右に動かしていた。

 逆立ちの少女、白虎、僕――三者それぞれの立ち位置を俯瞰するように。

 一度その全景を捉えたらしく、静止してじじじじじ。

 ズームして、各メンバーに焦点を合わせていた。

 ……うむむむ? 

 この学園って、学内の至るところにカメラがあるくせに、こんな事態になっても、誰かが助けに来てくれるわけでなし、警報機が作動するわけでもなし。

 なんか意味あるのか、あれ? 

 なんの目的で監視してんだ?

 そのことに困惑する僕だったが、その時点ではまだ気づいてなかった。

 この監視カメラ――学園の万全の「セキュリティ」を期すために設置されたそれは、別に生徒の安全のためにあるわけではないってことに。それらは、あくまで学園自体の保全(・・・・・・・)のために(・・・・)あるってことに。

 

「ぎゅあるぁああぁあああ!!」

 白虎が、大上段から魔剣を振り下ろしてきた。

 少女の脳天へと振り下ろされた呵責なき一撃を、すた~~ん!! 

 カポエイラにバク転してよけて。

 獲物を仕留め損ねた剣を、すうううう。白虎が水平に構えて。

 びゅううん、びゅおおおおん、びゅううん!! 左右斜め下に、つるべ打ちしてきたのを。

 すたんっ、すたんっ、すたたんっ!! 切れ目なくバク転でかわしていって。

 ずっがああああん!! 横に振り回された剣が、勢い余って小便器に激突。

 陶器のそれを一瞬にして木端微塵に!! 

 白い破片がそこらに散らばった!!

 おまけに、その時、水を流すボタンが何かの拍子で押されたようで。

 じゃあああああああ!! 粉々の陶器にかかっていて。


 ……あの少女、ついに魔物を本気にさせちまった。

 あんなはずし方するなんて、魔物(やつ)も相当頭に血が上ってる。 


 白虎が、再度魔剣を構え直した。

「ぎゅるぉおおおぉお!!」

 力任せで、大上段からごぶおぉっと振り下ろしてきたのを。

 冷めた目つきでその動きを負う少女が、さっと動いて。

 今度はバク転も前回転もせず、腰を低くし、すり足ですっと魔物(やつ)の懐へ踏み込んでいき。

 ……相手のリーチ内に入ったはいいが、そこからあの巨体に攻撃とか、難易度高くね? と浅読みするバトル素人だったが、案の定、すぐに自分の浅はかさに気づくことに。

 がっこ~~ん!! 彼女が強烈に蹴り上げたのだ。

 ――蹴り上げたって? どこを?

 その場所は……魔物じゃなくても、男子であれば世界中の誰だって悲鳴を上げそうな非常にデリケートなところ……ってつまり……金的。

 そんなとこって。

 いくら魔物相手でも反則じゃ?

「うんげえええええええええええええええええ!!」

 苦悶の絶叫を上げ、がら~んと剣を床に落とす白虎。

 少女は無情にも、ぴょんと宙に舞い上がって。

 飛んだまま、膝を胸に付けてくるり前回転して、ぱっと体を開いて。

 

 だだだっ、だだだだだだだだだだだだだだだだだっ、だだだだだ―――――――っ!


 白虎(やつ)のボディへと、怒涛の連続蹴りを見舞わせたのだ。

「ぐぎゃあああああああああああ!!」

 身を守る余裕すらなかった白虎が、目を剥き、吠え声を上げていて。

 束の間、虚空を見つめるかのような表情を作って。

 ぼふぁあんっ♪ 宙に向け、黄色い煙のようなものを吐き出した。

 一方、少女は、たんと床に着地し。

 ……あんな熱戦、繰り広げた後なのに、あいつ汗一つかいてないぞ。

 涼しげな顔で、顔にかかるロングな金髪を右手ではらいながら、その黄色い魂らしきものがふわふわと揺れる様子を見守っていたのだ。

 ところが、宙を漂っていたそれが、やおら何処へともなくふっと掻き消えてしまい。

 ずぶずずぅぅぅん!! 

 白虎が足元から崩れ落ち、どっぐああああん!

 その図体を仰向けにし、大木のようにトイレ床に倒れ伏したのだ。その体躯から放たれていた黄金のオーラも、煙のようにしゅうううと消えていってしまい。

 ずいぶんとまた呆気なく。

 勝負ついた……? 


 あの金的キックが致命傷だったのか?

 チート以外の何物でもない勝利だけど、助けてもらった僕が、どうこう言える義理でもない。ここは黙っておくべき。

 倒れた白虎に、少女がとことこ近づいていく。

 ……あいつ何する気だ? 

 バトル記念に、白虎の毛を一掴み抜きにいくとか? いや、それはないだろ? とこっちが怪しむ前で。

 両手をがばっと広げ、白虎の背中にその両手でつかみかかっていく。

「ぬおおおおおおおう!!」

 唸り声を上げるや否や、ま、まさか……!! 

 魔物の巨体を、少女が重量挙げみたいに持ち上げ出したのだ。

 ぬあんだあの怪力!! そんな(パワー)があるなら、足だけじゃなくて、手で戦っても良かったのに!? 

 いちいち無軌道な彼女の行動に、度肝を抜く僕の前で。

「あ~~~~ん♥」

 上を向いた少女が、大口まで開けて。

 魂が抜けた魔物を、その背中からうごっ、うごうごうごうごと。

 ……な、何が始まったんだ!?

 どう見ても魔物より小さすぎる、数十分の一サイズ程度の少女の口に、その巨躯が呑み込まれていきつつあったのだ。固形物(?)であるはずのそれが、彼女の口元からゲル状に柔らかくなっていき、うにゅん、うにゅにゅんと。

 食われるというか、異次元にでも吸い込まれていくように。

 瞬く間に、少女はボディ全体を呑み尽くしてしまって。

 顔を上げた彼女の口から、魔物の手足と顔だけがぶらぶらさせていた。

 ……こ、こんな吐き気がするほど幻惑的(ファンタジック)な光景って何!?

 しまいには、残された手足や顔まで、うごうごと呑み込まれてしまって。

 ……全部、食べちゃったよ。

 そして、彼女はにべもなくアニ声でこう言ったのだ。

「もうちょい、コシがあった方が良かったかな?」

 腰に両手をあてて背筋を伸ばし、その豊乳を張って小首を傾げ、にまーっと笑みながら。

 コシって? ゼリーにして呑み込んだのは自分なのに?

 人喰い(ラミア)が、何グルメな(?)こと言ってんだ。あ、今の人じゃなくて魔物だった?

 そればかりか、輪をかけて幻惑的(ファンタジック)だったのは。

 なんだ、あの少女? あんなデカいの丸呑みにしたのに、体型がぜんぜん変わってないぞ。どこに行ったんだ、あの虎? 

 人間を飲み込んだアナコンダ(トリニダード島に住む世界最大級の蛇)でさえ、完全消化するまでは丸太りなのに? 

 この少女の体ってどうなってるんだ???


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