バトルでおっぱい こんな予言が当たるのか?
「占ってやるから焦るな。この念球が、拙者の妄想を今からビジュアルにするから、それを待つんだ。拙者の場合、妄想って言っても自分の頭の中だけで思い浮かべるんじゃない。啓示のごとく天から降りてくるものが、我が思念と感応した時に初めて生まれるものなのだ」
などと、煙たい話を続けてきて。
「なんか分からんけど面倒臭そうな占い」
「占いじゃなくて予言だから!!」
「へ~~~~~~」と、こっちが流そうとすれば。
やにわに、少女が俯いて「むむむむう!!」念を込めるような声を発するや、念球をさらに強く擦り始めて。
……これから何か始まるのか!?
期待と不安を込めて見守る僕の前で。
びかびかびかぁっ。
透明球が発光し始めた。
それがじきに、大きな線香花火のごときにじりじりと明滅し始め、しゅびびびん!! レーザーみたいな光まで発してきて。その光が床まで達すると、ぼわん、ぼわわわん。
「何が起こってるんだ?」
最初、床上に人の形が曖昧に現れた。
なんだろう? と思っていたら、おもむろにその輪郭から細部までくっきりさせてきて。
「いいから見てなよ」「あ、うん……?」
気づくと、光が床で三次元映像を作っていて。
サイレントかつ鮮明な立体像が、人形さながらに床でぴょこぴょこ動いていたのだ。
その立体像は二者だった。
まず一者は、少年である。
炎の形をした刀剣を持つこの少年は……? あの顔……鏡でよく見慣れた……少しもイケメンでもなければ不細工でもないが、パッともしない天然パーマの……平凡高校生の僕……だった。……平凡高校生の僕……だった。
そして、その前にいるもう一者ときたら。
アリジゴクだ。クワガタみたいな鋭い顎があって蛇腹の胴をした。
それも僕の二倍ほどもありそうな巨大なやつ。
その二者で、こんな光景を繰り広げていた。
ぐわわわんっ!! アリジゴクが、僕に接近してその両顎を閉じてくるのを、こっちはあわや挟まれそうになりながらも、がーんっと右の顎を剣で斬り払った。切断されたそれがぽーんと宙に飛んでいくが、ぐわわんっ! なおも攻撃をやめぬアリジゴクの左の顎もががーんと切り払えば、それもぽーんと飛んでいって。しかし、アリジゴクはまだ残された大顎だけで僕を挟もうとしていて。
二者で熱いバトルに突入していたのだ。
この少年って、本当に僕なのか?
見た目はそっくりだけど、らしくなさすぎ。
高校生の僕が、バトルなんてしたことはない。剣の振り方も知らない。こんな無双ぶりってありえないんだけど。
「なんで、こいつがこんなに活躍してるんだ? 僕ってどう贔屓目に見ても、武闘派じゃないし、基本、平和主義者だぞ。自慢じゃないけど、前の学校じゃ柔道の授業でやられてたくらいで。勝算が百パーセントない争いは極力避けたい方だから。予言者様、説明してくれないか?」
我ながらなってない話をしつつ、そう聞くと。
「拙者の妄想……じゃなくて予言によれば、きみは近々、三千世界に知られる異能バトラーとなるはずなのだ。話の流れでいきなり、じゃなくて、ううん、自然な成り行きで。魔物との出会いやバトルは日常茶飯事。その試練を乗り越え、世界を股にかける最強界族となるんだぞ♪」
と言って、睫毛ふるふる釣り目きらりっ。
「そ、それが予言……?」
僕の脳内でなんかぷちぷち音がしていた。
これって脳細胞が死んでいく音? いや、そうじゃなくて、普段使ってないところを刺激された音なのか?
でも、どっちにしても同じことだ。僕にとって少女の台詞が理解範囲オーバーで、頭がショートしてたって点では。
またもチートな発言をした少女が、ベールの下で小首を傾げていた。釣り目を細め、にゅっと口角を緩めスマイルしながら。
「へぇぇ……? 異能に最強海賊ぅ? なんだそれんの必然性もなく、僕がそんなものになるのか? 厨二もここまで来ると感心だな。どんなカラクリか知らないけど、念球なんて小道具まで持ち出して。きみの妄想で、百パーセントそんなことになる!? 世界はきみの妄念で回ってる!?」
と、きつい言葉で迫ったこっちのツッコミがこたえたようで?
少女はピンと背筋を伸ばして、一転、マジメぶった顔して。
「うみゅぅ!! 拙者は厨二なんかじゃない!! 本物の予言者だ。きみは認めたくないようだが、百パーセント当たるのだ。的中の理由? それは、拙者にもうまく説明できないが、拙者の存在の波動と世界の振動数がいつも複雑に同期してしまうから、結果としてそうなってしまうとしか言い様がない!! まさに奇跡とも言える秘術なのだ」
演説をぶって、ものものしげに深く頷く彼女。
「その話も晦渋すぎて、ついていけない。厨二チックな理屈はスルーするしても、一つも納得行かないな。僕が異能バトラーとか海賊とか」
「海賊じゃないよ……界族ぅ!!」
と言った彼女に答えるかのように、「界族」の二文字が、床の上にルビ付き立体の黒ゴシック体でぼおんと浮かび上がってきて。
……この厨二、こっちの発音で漢字で分かるのか!? そんなことできるって、マジで異界の人!? てか超能力者!?
と、まごつきだす僕の前で。
ぽわぽわぽわぽわん。チャンネルでも切り変わるように、その立体映像も消えていき、その後。
「おや?」
またも違う映像が現れた。
今度も二者の立体映像だった。
一者はまたしても少年。イケメンでもブサメンでもないあの天然パーマのブレザーは……僕だ。僕が、あれは……? ベッド? ベッドの縁に座っている。
その上今回は。
「こ、これって? どういうシチュエーション?」
なんと、もう一者である少女が、その少年の膝の上に股を広げのしかかり、少年と向き合っていたのだ。
「何をしてるんだ、あの二人……!?」
しかもその少女は白いベールをまとっていて……その下にセーラービキニを……着ていなかった。なぜか、ベールの下は上半身裸でスカートだけを履いていて。
彼女がそんな恰好な上、僕(映像の中の)は、それもどうしてか分からないが、彼女のベールの中に上半身をすっぽり覆われていって。
なんだこれ!?
どんな成り行きでこんなことを?
「どういうことぉぉ!? 的中率百パーセントのはずの拙者の予言が~~~~!? こ、こんなことってあるはずがぁぁぁっ!!」
と動揺し始めたのは、彼女の方からで。
「これが僕なのか!? どうしてこんなことに!? さては厨二占い師が馬脚を現した!?」
映像の中とは言え、普通の高校生がこんなことって。
なんて残念な姿だ。こんなのが僕なんて、到底信じられい。
だから、そう主張したのに。
……ゴクリ。
事態は、それだけじゃ済まなかったのだ。
レーザー光が少女を背中側から映していたから、こちらからはしかと見えなかったけど、天パーの少年が顔を下に向け、そのまま少女の胸の谷間に……顔を埋めていった……のだ。
なぜだ? なぜそこまでするんだ!?
音声がなかったから聞こえこそしなかったものの、「ぁん……ぁあん……♥」背徳的な声でも出しそうな雰囲気で、少女が体を海老反りにし、顔を上に向けていて。
「何これ、こんな拙者ってええええ!? あるはずないぃぃぃ!!」と取り乱す少女に
「あるはずないって、その予言、元はきみの妄想だったんだろ!?」と、ツッコむ僕。
「げ!? 痴漢にそんなこと言われたくない!!」
「痴漢~~~~~~~~~~~~~~~~!?」
って、なんだよそれ。そんな加害者扱い。
どんな成り行きでこんな映像みたいになるのかも分からないし、僕が一方的に被害者?って、そういう問題でもなくて!!
「こっちは何もしてないし、するつもりだってない。きみが勝手に妄想予言とやらをビジュアル化? しただけじゃないか!!」
「拙者を愚弄する気か!? 三千世界一の予言者であるこの拙者をぉ!?」
逆切れしやがった。怪しい占い始めて、その結果がこれら他人のせいって、まさにインチキ厨二だぞ?
「愚弄なんてしてないよ!! 僕のどこに非があるんだ?」
「まだ言うか痴漢の変質者めっ!! とにかく、こんな予言は当たらないんだから!! 覚えときなさいぃ!! 拙者にこんなことした日には、その間抜けな顔ごと、三千世界の狭間に浮かぶことになるんだからね!!」
三千世界の狭間に浮かぶ? ってなんだそれ?
あと間抜けな顔って。その一言、日本語知らないだろこいつ。
とそこで、ぽわん、ぽわん、ぽわん。
助け舟のごときタイミングで。
念球からのレーザー光が弱まっていって、映像がすべて消えていって。
「今日は調子が悪かったようね。こんな妄想、じゃなくて予言をしてしまうとは、一流予言者である拙者が。むぅぅ。出直してくるとしよう」
少女がそう言うと、ふぁさ~っと。
UMAがその場でその翼を広げて。
ふぁさ、ふぁささと両翼を動かし、羽ばたき出して。
「くわあああああああああああああああ!!」
と一鳴きするなり、ふぁさあああああり。
少女をのせて、宙に浮かび上がった。
「じゃあねええええ!」
ふぁさふぁさふぁさふぁさぁぁぁ!!
飛んでっちゃったぞ……なんて無責任なやつ……てか勝手なやつ……。当たるも妄想、当たらぬ妄想な不届き予言して、丸投げで消えてくとか。
人として、いや厨二としても最低だぞ、あいつ?
UMAの背で少女が後ろを向き、こちらに手を振っていた。
ホールを飛び立ち、二人(二匹?)で開いていた窓から空を飛んで出ていった。
なんだったんだ、今の厨二?
じゃなくて、リアル・異界の人?
バトルとかおっぱいとか、あんなでたらめな予言が実現……するはずないよな、どう考えても。
あいつって的中率百パーセントとか言って自信満々なのに、「当たるはずない!!」って自分で否定してたし。
深まる謎を大量に残したまま、彼女は消えたのだ。